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ギャンブル依存者の思考パターンと認知のワナ

ギャンブルにのめり込んでいる人は、共通した思考パターンのクセを持っていることが知られています。例えば、大負けしても「次こそは勝てるはずだ」という根拠のない楽観で賭け続けたり、一度の負けを取り返そうと深追いしてしまったり…。こうした考え方は一見前向きにも思えますが、実は認知の歪みと呼ばれる落とし穴です。ギャンブル依存症に陥った人は、この歪んだ思考に囚われることで運や確率、コントロールに対する認識が偏り、それが問題行動を強めてしまうのです。研究によれば、これらのギャンブルに特有の誤った認知は程度の差こそあれ多くの人に見られ、依存が深まるにつれて一層顕著になりギャンブル行動の維持・悪化要因となることも示されています。では具体的に、ギャンブル依存者にはどのような思考のワナが見られるのでしょうか?

 
Nana
当事者の心理に寄り添いながら、代表的な歪んだ思考パターンを見ていきましょう!

ギャンブル依存に共通する誤った思考パターン

ギャンブル依存症の人に典型的な認知の歪みとして、以下のようなパターンが報告されています。これらは誰にでも起こり得る認知バイアスですが、ギャンブルにおいては特に顕著になり、依存を深める誘因となります。

 
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それぞれの特徴を確認してみましょう~

コントロールの錯覚(自分の操作で勝敗を左右できるという誤信)

人は本来コントロール不可能な偶然の出来事に対しても、「自分の力で結果を左右できる」と信じ込んでしまうことがあります。ギャンブルにおけるコントロールの錯覚はまさにそれで、勝敗は運任せのはずなのに、当事者は自分の働きかけで勝利を引き寄せられると感じてしまいます。例えばスロットマシンでレバーの押し方やタイミングを工夫すれば当たりが出ると信じたり、サイコロを振る強さで目をコントロールできると思い込んだりするケースです。心理学者エレン・ランガーは、この現象を「本来の確率以上に自分の成功を期待してしまうこと」と定義しました。実際にはスロットやルーレットの結果は完全にランダムであり、どんなに工夫しても勝率は変わらないにもかかわらず、本人は「自分のテクニックで勝てる」と感じてしまうのです。

 
Nana
こうした錯覚があると、負けが込んでも「自分のやり方次第で流れを変えられるはずだ」と考えて、ズルズルと賭け続けてしまいやすくなりますね⚠

ギャンブラーの誤謬(「次こそは当たるはず」という誤信)

ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)とは、過去の結果に基づいて「次はこうなるはずだ」と確率を誤って推測してしまう心理現象です。別名「ギャンブラーの誤信」とも呼ばれ、代表的なのはコイン投げやルーレットで独立した事象にもかかわらず「こんなに外れが続いたのだから次こそ当たるだろう」と信じ込むケースです。例えば、ルーレットで赤が連続で5回出た後に「そろそろ黒が出るはずだ」と思い込んで大きく賭けてしまう、といった行動です。しかし現実には各回の結果に関連性はなく、次に赤が出る確率も黒が出る確率も常に一定です。ギャンブラーの誤謬に陥った人はこの事実を受け入れにくいため、「負けが続いたから次は勝てるはず」「今回はツイているからこの流れは続く」と根拠なく信じてしまい、リスクの高い賭けを重ねてしまいます。

 
Miku
その結果、期待に反して負けが嵩んで深刻な損失を招くケースも少なくないのよね…

ニアミスの効果(「惜しい」体験が引き起こす誤解)

あと少しで勝てそうだったのに…という「惜しい!」という体験は、ギャンブル依存者の脳に強い刺激を与えます。スロットマシンであと一つ揃えば大当たり、という場面を想像してください。結果は外れていても、当事者は「もう少しで勝てるところだった」と感じ、大勝利が目前に迫っているような興奮を覚えます。このニアミスの効果によって、ギャンブラーは「次こそは…!」と期待を膨らませ、負けても負けてもプレイをやめられなくなるのです。実際、脳科学の研究でも「惜しいはずれ」が起きた際には脳の報酬系(腹側線条体)が活性化し、実際に勝利した時と似たドーパミン分泌反応が生じることが報告されています。特にギャンブル問題を抱える人ほどこの反応が強く、ニアミスで得られる一瞬の快感が依存を強化する報酬として働いている可能性があります。

 
Nana
言い換えれば、本当は負け続きで損をしている状況であっても、「今はたまたま運が向いていないだけで、大勝ちがすぐそこまで来ている」と感じてしまって、正常な判断力が奪われてしまうってことね…

選択的記憶(勝ちの記憶だけを過大評価する傾向)

ギャンブル依存者の中には、自分の「勝った記憶」ばかりを都合良く覚えていて、負けた記憶は曖昧になっている人が少なくありません。この選択的記憶の偏りにより、「自分はトータルでは結構勝っている」「やっぱり自分にはギャンブルの才能がある」といった誤った自己認識を形成してしまいます。実際の統計では大幅なマイナスであっても、過去の大勝ちした体験ばかりを鮮明に思い出し、負けた出来事は記憶からすり抜けてしまうのです。ある研究でも、ギャンブラーは勝利の記憶のみを強く保持し、損失の記憶を忘れがちであることが示されています。その結果、「自分はトータルでは勝っているはずだ」という誤った成功体験を信じ込み、楽観的に賭け続けてしまう傾向が生まれます。

 
Miku
選択的記憶の歪みは自覚しにくいから、当事者が自分の実際の収支状況を正確に把握できなくなって、気づけば借金だけが残る…という悪循環に陥りやすくなるのね

迷信的思考(お守りやジンクスに頼る誤った関連付け)

ギャンブルには数多くのジンクスおまじないがつきものです。勝負運を上げる「ラッキーアイテム」や「勝負服」を決めていたり、「今日はあの神社にお参りしたから当たるに違いない」などといった迷信的思考(魔術的思考)に囚われたりするケースが典型です。本人はそれらの儀式によって不安が和らぎ、自信が持てるように感じますが、もちろん実際の勝率には何の影響も及ぼしません。こうした非合理な思い込みは、偶然の結果に意味のない因果関係を見出してしまう誤った関連付けです。イギリスの調査では、衝動性の高いギャンブラーほど「幸運のチャームを持ち歩けば勝てる」「最近の負けは運が悪いだけ」といった迷信や誤った理由付けに陥りやすいことが報告されています。このような魔術的な信念は本人に「自分には運を味方につける方法がある」という錯覚の安心感を与えるため、ギャンブル行動を正当化し長時間続ける誘因となってしまいます。

 
Nana
勝った時はお守りのおかげ、負けた時は「今日はツイてなかった」と考えて、自分のギャンブル行動を都合良く正当化して、損失が膨らんでも歯止めが利かなくなってしまうのね

負けを取り返そうとする心理(チェイシングの罠)

ギャンブル依存を特徴づける行動の一つに、「負けを負けのまま終わらせられない」心理があります。大きく負けた後、「このままでは終われない、取り返すまではやめられない!」という強い衝動に駆られ、さらに無謀な賭けに走ってしまう現象は、チェイシング(Chasing)と呼ばれます。例えばパチンコや競馬で大負けした直後に、借金をしてでももう一度勝負し「失った分を取り返そう」とする行動がそれです。健常なギャンブラーであれば、ある程度負けが込んだ時点で「今日はツイていない」と切り上げたり、事前に決めた損切りラインでやめたりできます。しかし依存症の人は負けを認めることができず、取り返せるまで止められなくなってしまいます。事実、一般の娯楽的ギャンブラーは負けが続けばそこで切り上げるものですが、ギャンブル依存症の人は損失を回収しようと際限なく賭け続ける傾向が強く、時間の経過とともにそのパターンはますます破壊的になっていきます。このチェイシング行動は病的ギャンブラーの典型症状の一つとして精神医学的にも認められており、DSM-5(精神障害の診断基準)にも「しばしば損失を取り戻すために別の日に賭けを続行する」という項目が明記されています(※ギャンブル障害の診断基準の一部)¹。

 
Miku
「負けた分さえ取り返せばプラスに転じるはず」という信念はほとんどの場合錯覚で、実際にはさらに深刻な損失を積み重ねる結果に終わってしまうのね

「一度ハマったら抜け出せないのでは」という絶望感

ここまで見てきたような認知の歪みが積み重なると、ギャンブル依存者は次第に自分自身に対する歪んだ信念まで抱くようになります。その最たるものが「自分はギャンブルをやめたくてもやめられない」「一度ハマったらもう抜け出すのは不可能だ」という極端な思い込みです。実際、ギャンブルにのめり込んだ人の多くが「今さら自分は救われない」「このまま破滅してしまうしかない」という強い無力感や絶望感を口にします。しかし専門家によれば、この「やめられない」という感覚そのものがギャンブル依存症による認知の歪みの一種であり、適切なサポートによって修正可能な考え方です。認知行動療法の現場でも、「ギャンブル以外に問題を解決する手段がない」「自分の意思では絶対にコントロールできない」といった否定的な思考はしばしば治療の障害となるため、継続的に修正していく対象となります。実は多くのギャンブル依存者が専門治療や自助グループへの参加によって立ち直っており、「抜け出せない」という思い込みは決して事実ではありません。

 
Nana
希望を捨てず、まずはこの認知の歪みに気づくことが回復への第一歩!

以上のように、ギャンブル依存症には確率や記憶のバイアス、誤った信念など様々な認知のワナが存在します。これらは個々には別の現象に見えますが、相互に絡み合ってギャンブル継続の悪循環を生み出します。歪んだ思考によって勝てば過信し、負けても都合良く解釈し、さらに深みにハマる…。その心理的メカニズムを理解することが、依存から抜け出すための重要なステップになります。

認知行動療法による歪んだ思考の修正

ギャンブル依存から回復するためには、上述したような認知の歪みを正していくことが不可欠です。実際、ギャンブル障害の治療では認知行動療法(CBT)が最も有効なアプローチの一つとして広く用いられており、CBTの中心的な目標はギャンブルに伴う「誤った考え(認知のエラー)¹」を洗い出し、それを修正することにあります。認知行動療法(日本語では認知療法とも呼ばれます)は、患者自身が思考パターンの偏りに気づき、現実的で柔軟な考え方に置き換えるトレーニングをしていく心理療法です。

歪んだ思考への気づきを促す

CBTの最初のステップは、本人が自分の自動思考(何か起こった時にとっさに浮かぶ考え)を客観的に捉え直す練習から始まります。ギャンブル依存者の場合、負けが込んだ時や強い誘惑に直面した時に、どのような考えが頭をよぎるでしょうか?例えば「今日は調子が悪いけど次こそは当たるに違いない」「ここでやめたら大損だ、取り返すまではやめられない」といった具合に、先ほど挙げた認知の歪みが思考に現れているはずです。認知行動療法ではまず、そうした自動思考を書き出したりモニタリングしたりして、どんな歪みのパターンがあるか本人と治療者が一緒に確認します。

 
Miku
「またギャンブラーの誤謬にハマっているな」「今の思考は選択的記憶による楽観かもしれない」と気づくことで、初めて人はその考えを疑ってみる余地が生まれるってことね

非合理的な信念を現実的な考え方に置き換える

次のステップでは、認知の歪みに基づく非合理的な信念を一つ一つ現実的・論理的なものへと修正していきます。治療者は患者に対し、その考えを裏付ける証拠は何か、客観的な事実と矛盾していないか、といった問いかけを行います。例えば、負けが続いた後に「次は当たるはずだ」と思い込んでいる場合には、「なぜ次は当たると言い切れるのか?」「それはギャンブラーの誤信ではないか?」といった具合に問い直します。すると患者自身、「確かに過去の結果は次の結果に影響しないはずだ」「冷静に考えれば毎回50%の確率は変わらない」と確率の独立性を再認識できるようになります。また「ここでやめたら損だ」という気持ちには、「今やめればそれ以上の損失は防げる。続ければもっと失うリスクが高い」という合理的な視点を提示します。さらに「このままじゃ抜け出せない」という絶望的な発想に対しては、「今までも自分の力だけでやめようとして失敗していただけで、適切な支援を受ければ回復している人は大勢いる」という事実を教えて希望を持たせます。

 
Nana
典型的な歪んだ思考とそれに対する現実的な捉え直しの例を表にまとめてみたわ
歪んだ思考の例現実的な捉え直し(合理的な考え方)
「負けが続いているから次はきっと勝てる」(ギャンブラーの誤謬)「偶然の結果に“ツキ”は存在しない。たとえ連敗中でも次の勝率は変わらない¹」
「スロットのボタンをタイミング良く押せば当たりを引ける」(コントロールの錯覚)「スロットは完全にランダム操作不能。どんな押し方でも長期的には店が勝つ設定²」
「今逃げたら損する。借金してでも取り返すべきだ」(負けを認められない思考)「これ以上賭けても損失が膨らむ可能性大。借金までして続けるのは最悪の選択」
「今日はお守りを持ってきたから勝てるはず」(迷信的・魔術的思考)「勝敗にオカルトの効果はない。お守りは気休めに過ぎず、勝率には影響しない」
「自分はギャンブルで生活できる特別な才能がある」(選択的記憶・過信)「自分が覚えている勝ちの記憶は偏っている。総合計では大きく負け越しているはずだ」
「結局、自分はギャンブルをやめられない人間なんだ」(低い自己効力感・絶望視)「『やめられない』と感じるのは認知の歪み。適切な治療やサポートがあれば必ず変われる

¹各ゲームの結果は独立しており、たとえ連続して外れても次回の当選確率は変わらない
²スロットマシンは統計的にプレイヤーが負けるよう設計されています。ボタンの押し方で確率を変えることはできません。

上の表のように、自分の思考パターンを書き出し客観視することで、「勝てるはず」「やめられない」といった考えにツッコミを入れる習慣が身についていきます。これは認知行動療法の認知再構成というプロセスで、時間はかかりますが繰り返すほど効果が高まります。歪んだ思考が現れた際に、「またこのパターンにハマっているぞ」と気づいて立ち止まり、表のような合理的セルフトークで置き換える練習を積むのです。

日常でできる対策と専門家のサポート

 
Miku
認知の歪みを修正するために、日常生活でできる実践法もいくつかあるわよ

まず、実際の勝敗記録をつけることは有効です。頭の中の記憶だけに頼っていると「自分は結構勝っているはず」という選択的記憶のワナに陥りがちですが、日付ごとの収支をノートやアプリに記録していけば現実を直視できます。負けが嵩んでいる現状を数字で把握すれば、「このまま続けてもプラスにはならない」という冷静な判断につながるでしょう。また、ギャンブル欲求が高まった時には時間を置いて頭を冷やす癖をつけることも大切です。衝動に駆られている最中は「今行かなきゃ機会を逃す」「すぐリベンジしなきゃ」と思い詰めてしまいますが、一歩引いて考えればカジノやパチンコはいつでもそこにあるのであって、今この瞬間でなくても良いはずです。実際、「一度席を立って深呼吸すると衝動が和らぐ」と多くの回復者が証言しています。

しかし、重度のギャンブル依存に陥っている場合、自力で認知の歪みに気づき修正していくのは容易ではありません。「わかってはいるけどやめられない…」という段階であれば、やはり専門家の手を借りるのが近道です。認知行動療法に精通したカウンセラーや医療機関では、ギャンブラー特有の思考パターンに詳しく、効果的な対処法を熟知しています。実際に認知行動療法はギャンブル障害の治療法として最もエビデンスが蓄積された手法であり、問題ギャンブラーに対する複数の臨床試験で有効性が示されています。専門家の支援の下であれば、自分一人では直視しづらかった思考の偏りにも向き合いやすく、適切なフィードバックをもらいながら着実に認知の修正スキルを身につけることができます。

さらに、治療の一環としてギャンブルに代わる健全なストレス対処法を見つけることも重要です。多くの依存者は「ギャンブル以外にストレスを発散する手段がない」と感じていました。そこでカウンセラーは、趣味や運動、人との交流など代替行動を提案し、ギャンブル以外で楽しみや達成感を得る練習も行います。これにより、「嫌なことがあってもギャンブルに逃げなくても大丈夫だ」という新しい自己効力感が培われ、認知の歪みを根本から是正する助けとなるのです。

おわりに:歪んだ認知を正せば未来は変わる

ギャンブル依存者の思考パターンとして代表的なものを見てきましたが、いかがでしたか?もしご自身に思い当たる節があれば、まずは「これは脳が見せる錯覚なんだ」と理解することから始めてみましょう。認知の歪みは誰にでも起こり得るものであり、決して意志の弱さや性格の問題ではありません。大切なのは、その歪みに気づいた上で適切に対処することです。認知行動療法の技法や日常でできる工夫を取り入れれば、「次は勝てる」「負けを取り返さなきゃ」といった考えに振り回されずに済むようになります。そして「一度ハマったら抜け出せない」という思い込みも手放してみてください。それ自体が病的ギャンブルが見せる幻であり、実際には回復への道は必ず存在します。事実、専門治療や自助グループによってギャンブルの悪循環を断ち切った人は数多くいるのです。あなたも決して遅くはありません。歪んだ認知を少しずつでも修正し、本来の冷静さと自信を取り戻せば、ギャンブルに振り回されない未来を取り戻すことができるでしょう。専門家や周囲のサポートを活用しながら、ぜひ今日から第一歩を踏み出してみてください。心から応援しています。😉

 
Nana
お疲れ様でした~ 理解度チェックテストもおわすれなく (`・ω・´)ゞ
ギャンブル依存「認知のワナ」
理解度チャレンジ

参考文献

  1. Cognitive Distortions in Problem Gambling – Immunize Nevada (2024)
  2. Non-problem gamblers show the same cognitive distortions while playing slot machines as problem gamblersFrontiers in Psychology (2023)
  3. Going in for the Skill: Gambling and the Illusion of Control – Psychology Today (2014)
  4. Gambler’s Fallacy – The Decision Lab
  5. Link Between Gambling Addiction and the Brain’s Reward Systems – Practical Recovery (2010)
  6. Impulsivity and superstitions in pathological gamblers: Betting on four-leaf clovers – ScienceDaily (2011)
  7. Compulsive gambling (Gambling Disorder) – Symptoms & Causes – Mayo Clinic (2022)
  8. Treatment recommendations for gambling disorders – Mass.gov: Office of Problem Gambling Services (2021)
  9. Can CBT Help My Gambling Problem? – Calm Anxiety (2023)
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