ギャンブルがやめられずに「もしかして自分も依存症かも…?」と不安に感じていませんか。ギャンブル依存症は本人が自覚しにくい問題で、「自分はまだ大丈夫」「いつでも止められる」と思い込みがちです。しかし放置すれば経済的・家庭的な破綻など深刻な事態を招くおそれがあります。いつも記載しておりますが、日本では成人の約2.2%(約220万人)がギャンブル依存症の可能性があるとの調査結果もあり、決して珍しい問題ではありません。この記事では、ギャンブル依存症の典型的な症状や行動パターンを解説し、ご自身でできるセルフチェック(世界的に用いられているPGSIテスト)をご紹介します。セルフチェックの結果に応じた初期対策や、「自分はまだ大丈夫」と思いがちな心理への対処法も取り上げます。
ギャンブル依存症の症状と特徴
ギャンブル依存症とは、本来は娯楽であるはずの賭け事にご自身の生活を支配され、「止めた方がいい」と頭では分かっていても強烈な渇望(強い欲求)に抗えず、自分ではコントロールできなくなる状態を指します。賭け事によって既に借金などの不利益が生じていて「やめなければ」と考えても、結局はまたギャンブルを繰り返してしまう——本人の意思では止められない病的な状態なのです。このようなコントロール不能なギャンブル行為は、米国精神医学会の診断基準(DSM-5)においてアルコールや薬物の依存症と同じカテゴリーに分類されており、医学的にも立派な「依存症」という病気と位置付けられています。
- ギャンブルへの強いとらわれ:常に賭け事のことが頭から離れず、次に何を賭けるか・資金をどう工面するかなど考えてしまう。日常生活よりギャンブルが最優先になっている。
- 耐性の形成:以前は少額の賭けでも興奮できていたのに、次第により大金を賭けないと満足できなくなる(興奮を追い求め賭け金がエスカレートする)。
- コントロール喪失:「もうやめよう」と思っても自分の意思ではやめられない。一度始めると止まらなくなり、負けても「取り返せるはず」と考えて深追いしてしまう。
- 禁断症状:ギャンブルを中断・中止すると落ち着かなくなったり、イライラや不安感が生じる。ギャンブルで感じる高揚感がないと満たされず、精神的に不安定になる。
- 現実逃避:ストレスや憂うつな気分を紛らわす手段としてギャンブルにのめり込む。嫌なことを忘れるために賭け事に没頭する癖がついてしまう。
- 連敗の深追い(負け逃げ):ギャンブルで負けた分を取り戻そうとして、さらに賭け続ける(いわゆる「負けを取り返す」行為)。負けが込むほど熱くなり、引き際を見失います。
- 嘘や隠し事:ギャンブルにのめり込んでいる事実を隠すために嘘を重ねる。家族や友人に賭け事の実態を言えず、負けたことや使ったお金の額をごまかす。
- 生活への悪影響:ギャンブル中心の生活により、大切な人間関係や仕事・学業に支障をきたす。約束を破ったり遅刻・欠勤が増えたりして、周囲との信頼関係が崩れてしまうこともあります。
- 経済的破綻:給料や貯金をギャンブルにつぎ込み、借金が膨らむ。手持ちのお金が尽きると、資金欲しさに借金をしたり、家財道具を売り払ったりするケースもあります。最悪の場合、盗みや横領など違法行為に手を出してしまうこともあります。
これらは代表的な症状の一部ですが、ひとつでも思い当たる節があるなら注意が必要です。実際、ギャンブル依存症になると金銭感覚が大きく崩壊し、借金まみれになっても平気でギャンブルを続けてしまう傾向があります。その結果、経済的な破綻だけでなく家庭崩壊や仕事の喪失など重大な問題が生じがちです。状況が悪化すると、自暴自棄になって自殺を図ったり、資金欲しさに横領・窃盗など犯罪に走ってしまうケースさえ報告されています。
セルフチェック(PGSI簡易テスト)
ギャンブル依存症の疑いがあるかどうか、まずはセルフチェックしてみましょう。世界的に広く使われているPGSI(問題ギャンブル重症度指数)というテストがあります。これはカナダのWynne博士らが開発した9項目からなるスクリーニングテストで、日本語版も作成され国内の調査や相談窓口で活用されています。以下の質問は過去12か月間のご自身のギャンブル状況について尋ねるものです。「はい」か「いいえ」でお答えください(※正式な診断ではなく簡易的な自己判定です。結果が心配な場合は専門機関での評価をおすすめします)。
PGSI 簡易セルフチェック
直近 12 か月を振り返り、各質問に 「はい」 / 「いいえ」 で答えてください。
1. 失ってしまうと生活に支障が出る大金を賭けたことがありますか?
2. 同じ興奮を得るため以前より多くの金を賭けるようになりましたか?
3. 負けたお金を取り戻そうと後日ギャンブルをしたことがありますか?
4. 資金確保のため借金をしたり持ち物を売ったことがありますか?
5. 自分はギャンブルに問題があるかもしれないと感じたことがありますか?
6. 周囲から「やめるように」と指摘されたことがありますか?
7. ギャンブル中や後に罪悪感を感じたことがありますか?
8. ギャンブルが原因でストレスや不眠などの健康問題が生じましたか?
9. ギャンブルで金銭的問題(生活費不足・借金)が起きましたか?
判定: いかがでしたか。上記の質問で「はい」が0個だった方は今のところ問題は小さいでしょう。1~2個だった方は「低リスク」(今後注意が必要な段階)、3~7個の方は「中程度リスク」(問題が現れ始めている段階)、8~9個の方は「高リスク(問題ギャンブラー)」に該当する可能性があります。PGSI本来の評価法では各質問に0~3点の点数をつけ合計点で判定しますが、概ね「はい」の数が増えるほどリスクが高いと考えてください。例えば1~2問のみ該当する場合は軽度でも、8問以上該当する場合は深刻な問題ギャンブラーに該当します。「はい」が一つでもあった方は、たとえ軽度でも早めに対策を講じておくに越したことはありません。
ギャンブル依存症かもしれないと思ったら:今日からできる初期対策
セルフチェックの結果、「もしかして…」と思った方も大丈夫です。今日からできる小さな対策を積み重ねれば、依存症は必ず回復可能です。ここでは、リスク度合いに関わらず有効な初期対策をいくつかご紹介します。ご自身のできる範囲から試してみてください。
- ギャンブルをしない日を作る(小さな目標設定): まずは「○曜日は絶対にギャンブルしない日」と決めてみましょう。あるいは「まず今日一日、賭け事をせずに過ごす」という小さな目標でも構いません。「今日はやめてみよう」を積み重ねていくことで、ギャンブル中心の生活リズムを少しずつ断ち切る感覚を掴めます。最初は落ち着かなくても、一日達成できれば自信につながります。できた日はカレンダーに印をつけ、徐々に「ギャンブルをしない日」を週に2日、3日…と増やしていきましょう。
- 金銭的な制限を設ける: ギャンブルに使えるお金の上限を明確に決め、それ以上は絶対使わないルールを自分に課してみましょう。例えば「今月は〇円以上使わない」「財布には最低限のお金だけ入れておく」などです。クレジットカードやキャッシュカードも持ち歩かない工夫をしてください。物理的にお金を使えない環境を作ることで、衝動的に賭けに走るのを防ぎます。
- 信頼できる人に相談する: 一人で抱え込まず、家族や親しい友人など信頼できる人に現状を打ち明けてみましょう。「実はギャンブルをやめたいけど自信がない」と正直に話すだけでも心が軽くなります。周囲に味方がいると、ギャンブルと距離を置くプレッシャーにもなります。もし身近に話せる人がいなければ、電話やオンラインの相談窓口を利用する手もあります(後述の専門機関参照)。大切なのはあなた一人ではないということです。
- 専門の窓口や医療機関に相談する: 「依存症かな?」と思ったら、早めに専門家に相談することも検討してください。お住まいの地域の保健所や精神保健福祉センターでは、アルコール・薬物・ギャンブルなど依存症全般の相談を受け付けています。相談は無料で匿名でも可能です。また各都道府県には依存症専門医療機関や相談拠点が整備されています。専門医療機関では、医師やカウンセラーによるカウンセリングや必要に応じた治療プログラム(認知行動療法など)を受けることができます。「治療なんて大げさかな…」と尻込みする必要はありません。依存症は早期相談・早期治療するほど回復しやすいとされています。まずは気軽に相談窓口に連絡し、今の状況を話してみましょう。専門家から適切なアドバイスをもらうだけでも、今後の道筋が見えてくるはずです。
- 自助グループに参加する: 同じ悩みを持つ仲間と支え合う場に参加してみるのも有効です。ギャンブル依存症の当事者が集まる自助グループ(例えばGA=ギャンブラーズ・アノニマスなど)では、互いの体験や気持ちを共有しながら、賭けない生活を続ける励まし合いが行われています。仲間の話を聞くことで「自分だけじゃない」と安心できますし、先に回復に向かった人から役立つアドバイスをもらえることもあります。参加は強制ではなく匿名で構いません。合う・合わないは人それぞれですが、興味があれば地域の自助グループやミーティングに一度足を運んでみてください(各地の保健所や専門機関に問い合わせれば紹介してもらえます)。
上記の対策は、リスクが低いうちから実践しておくことで深刻な依存状態への進行を予防する効果があります。既に中等度以上のリスクがある方は、ぜひ積極的に専門家の力も借りながら実践してみてください。
「まだ大丈夫」と思いたい心理と早期発見の大切さ
ギャンブル依存症は俗に「否認の病」とも呼ばれます。本人が自分の問題を認めようとしない傾向が強いためです。「自分は依存症じゃない」「本気を出せばやめられる」「借金はあるけどまだ破滅するほどじゃない」といった具合に、つい自分で自分に言い訳をしてしまうのです。こうした否認の心理は誰にでも起こり得ます。人は自分の弱さや失敗を直視するのが怖いものですから、心の防衛反応として「まだ大丈夫」「自分は違う」と思い込みたくなるのです。
しかし、否認している限り問題はどんどん悪化してしまいます。たとえば負債が膨らんでからようやく事態に気づいても、取り返しがつかない損失を出しているかもしれません。依存症の回復は、早期発見・早期対応が肝心だと専門家も指摘しています。逆に言えば、早めに「おかしいな」と気づいて対策を始めれば、必ず回復への道は開かれます。どうか「まだ平気」と先延ばしにせず、勇気を出して現状を直視してみてください。
自分で問題を認めるのは勇気が要りますが、最初の一歩は「現状を客観的に見ること」です。今回のセルフチェックの結果も、一つの客観的な材料になります。「思ったより当てはまる項目が多かった…」という方は、その事実をどうか前向きに捉えてください。
実は、私自身もかつてギャンブルにのめり込んでいた経験があります。最初は「自分は依存症じゃない、コントロールできている」と都合よく考えていました。負けが込んでも「次はきっと勝てる」「今回だけもう少しだけ」と自分に言い聞かせ、借金をしてまで打ち続けたこともあります。今振り返れば完全に依存症の行動パターンそのものでしたが、当時の私は認めたくなくて現実から目を背けていました。そんな私が転機を迎えたのは、ある日ついに家族にすべてを打ち明けて相談した時です。勇気を振り絞って「自分はギャンブルを自分では止められない」と認め、専門の支援を受ける決心をしました。問題を受け入れた瞬間から、不思議と心が軽くなり、「このままじゃ終わりたくない、変わりたい」という前向きな気持ちが湧いてきたのを覚えています。それまでの私は孤独でしたが、相談窓口のスタッフや自助グループの仲間など支えてくれる人がいると分かり、「自分も回復できるかもしれない」と希望が持てました。
あなたも、もし「自分はまだ大丈夫」と心のどこかで感じているなら、その声に耳を傾けつつ、ぜひ一度今回のチェック結果や周囲からの指摘に目を向けてみてください。決して恥ずかしいことではありませんし、あなたが弱い人間だという証拠でもありません。ギャンブル依存症は現代社会では誰もが陥りうる身近な問題であり、適切な治療と支援によって必ず良くなります。むしろ問題に気づいて対策しようとしている今のあなたは、とても勇気ある行動を取ろうとしています。その一歩を自分自身で褒めてあげてください。
まとめ:一人で悩まず、まずは一歩踏み出そう
ギャンブル依存症は放置すれば人生を壊しかねない深刻な問題ですが、適切な対処をすれば回復できる病気です。この記事で紹介したセルフチェックで少しでも気になる結果が出た方は、ぜひ今日できる小さな行動を起こしてみましょう。例えば「今週は○日間ギャンブルを休む」「地元の相談窓口に電話してみる」「家族に正直に打ち明けてみる」——どんなことでも構いません。大切なのは行動を起こすことです。行動すれば現状は必ず変わっていきます。
繰り返しになりますが、あなたは決して一人ではありません。 ギャンブル依存症に苦しむ人は世の中に大勢いますし、あなたの回復をサポートするための相談先や治療プログラム、自助グループなども充実してきています。問題を抱えているのはあなただけじゃない、と知るだけでも少しホッとしませんか?周囲の支えや専門家の力を借りながら、「賭けない生き方」を取り戻すことは十分可能です。どうか自分を責めすぎず、「まずは相談してみようかな」「少しギャンブルと距離を置いてみよう」という一歩を踏み出してみてください。その勇気ある決断が、きっとこれからの人生を良い方向へ導いてくれるはずです。あなたの未来には、ギャンブルに縛られない自由な時間とお金、そして取り戻せる笑顔が待っています。
PGSI 記事 理解度チェック(全10問)
徐々に難しくなります。全問解答するとスコアが表示されます。
参考文献
¹ 田辺等先生に「ギャンブル依存症」を訊く|日本精神神経学会
² ギャンブル依存症の症状とサイン|依存症対策全国センター
³ PGSI日本語版(ギャンブル依存のスクリーニングテスト)|久里浜医療センター
⁴ 依存症対策|厚生労働省
⁵ ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ|消費者庁
⁶ ギャンブル依存症になりやすい人の3つの特徴と対策を解説!予防・治療・回復をサポート|くるみ訪問看護ステーション