セルフチェック:あなたは再発リスクがある?
回復の途上にいる人でも、ふとした油断や環境の変化から再発(スリップ)の兆候が現れることがあります。まずは以下の10問のセルフチェックで、現在のご自身の再発リスクを確認してみましょう。各質問に対し、今のあなたに当てはまるものは「はい」、そうでなければ「いいえ」を選んでください。
再発警告サインとは?
「再発警告サイン」とは、ギャンブル依存症が再燃する前兆となる心身の変化や行動パターンのことです。再発(スリップ)は決して突然起こるわけではありません。実際には再発に至る前の数日~数週間にわたり、当人の考え方や気分、行動に少しずつ変化が現れていきます。その小さな変化が積み重なり、臨界点を超えたときに再びギャンブルへと手が伸びてしまうのです。
依存症専門家の間では、再発のプロセスを「早期警告サイン」「中期警告サイン」「後期警告サイン」と段階分けして捉える考え方もあります¹²。一般に、初期のサインはストレスや感情面の小さな乱れとして現れ、中期になると周囲にもわかるような態度や行動の変化に発展します。そして後期サインまで進行すると、本人は「一度くらい…」と半ばギャンブルに手を出す決心を固めてしまい、再発に至ってしまいます。こうした段階を踏むため、事前に警告サインに気づけば再発を防げる可能性が高まるのです。
重要なのは、警告サインの内容や現れ方は人それぞれだという点です。例えば不眠やイライラといった症状が真っ先に出る人もいれば、社交を避け始める人、逆に陽気に振る舞って隠そうとする人もいます。
なお、ここで言う「再発」とは一度断ったギャンブルへの逆戻りを指しますが、これは決して本人の意志の弱さや人間性の問題ではなく、依存症の病態の一部です¹。ギャンブル依存症は糖尿病のような慢性疾患であり¹、適切な治療と支援を続けていても一時的な再発は起こり得ます²。大切なのは再発そのものを恥じることではなく、その兆候を早めにキャッチし、深みにはまる前に軌道修正することです。
代表的な再発の警告サイン
では具体的にどのような兆候が「再発警告サイン」として現れるのでしょうか。一般的によく見られる例を挙げてみます。
- 情緒不安定・ストレス過剰: イライラしやすくなったり、不安感や落ち込みが強まったりといった情緒面の乱れ。特に理由もないのに気分が沈む場合、それは心のストレス信号かもしれません。
- 油断・過信の気持ち: 「自分はもう大丈夫」「二度とギャンブルに戻るはずがない」と慢心する心理状態。油断によって対策を怠り、知らぬ間にリスク要因へ近づいてしまう可能性があります。
- 依存的な思考の再燃: かつてのギャンブル体験を都合よく思い出したり、「あの台に座っていれば…」「もう一度だけチャンスを…」などと考えてしまう。頭の中で再びギャンブルへの期待や妄想が膨らむ状態です。
- 生活習慣の乱れ: 睡眠不足や昼夜逆転、食欲不振など、生活リズムが崩れ始める。体調管理が疎かになることは心の不安定さの表れであり、判断力の低下にもつながります。
- 嘘や隠し事が増える: 自分の状況を周囲に正直に話さなくなり、小さな嘘やごまかしが増えてくる。他人に隠したい秘密がある場合、それ自体が再発の伏線となり得ます。
- 孤立傾向・サポートからの距離: 家族や支援者との連絡を避けたり、自助グループへの出席頻度が減るなど、回復コミュニティから遠ざかる傾向。助けてくれる人との繋がりを断つことは危険信号です。
- ストレス解消の怠り: ストレスや欲求不満を感じても、「まぁいいか」と放置してしまい健全な発散をしない。趣味や運動など従来のストレス解消法への興味も薄れている場合、要注意です。
- 環境・トリガーへの接近: かつて賭けていた場所や関連サイト・アプリに何気なく触れてしまう。例えばパチンコ店の近くを通る道を選んだり、ギャンブル番組やSNS投稿を積極的に見てしまうといった行動です。
- 金銭管理の緩み: ギャンブルを控えていた頃はきちんとしていた金銭感覚が甘くなり、「今回だけ少しなら……」と浪費したり借金に手を出したりする。家計管理への意識低下は再発の大きな誘因です。
- 再開への言い訳づくり: 「ストレス発散に少し遊ぶくらい平気」「今回だけ特別」など、ギャンブル再開を正当化する考えが頭に浮かぶ。自分の中で負ける言い訳や理由探しが始まったら危険信号です。
以上のようなサインはあくまで一例ですが、一つでも思い当たるものがあれば要注意です。それ自体は小さな変化でも、放置すると連鎖的に悪化していく恐れがあります。
警告サインに気づいたら…再発を防ぐ対策
再発の兆候に気づいた場合、できるだけ早く対策を講じることが重要です。まず一人で抱え込まないようにしましょう。信頼できる家族や支援者、主治医やカウンセラーに現状を正直に打ち明け、相談してください。「また賭けたい気持ちが湧いてきて怖い」「最近調子が悪い」と伝えるだけでも構いません。専門家や経験者から適切なアドバイスが得られるはずです。
また、生活習慣の立て直しも効果的な対策です。例えば睡眠不足が続いているなら意識して休養をとる、運動や趣味の時間を増やしてストレス発散に努める、乱れていた食生活を整えるなど、基本的なセルフケアを見直しましょう。特に再発防止に有効だった習慣(例:自助グループのミーティング参加、家計簿や日記の記録、毎朝の瞑想等)を思い出し、もう一度積極的に取り組んでください。調子が良かった頃のルーティンを復活させることで、再発リスクはぐっと低減します。
さらに、再発の誘因になりそうなものから物理的・心理的に距離を置くことも大切です。例えば財布に多額の現金を入れない、スマホのフィルタリングでギャンブル関連サイトをブロックする(後述のBetBlockerなどの活用)、仕事帰りに遊技場の前を通らないルートを選ぶ等、「ハイリスクな状況」そのものを避ける工夫をしましょう²。
そして何より、「再発は防げる」という前向きな姿勢を持ち続けてください²。確かに依存症は再発率の高い病気であり、多くの人が回復の道でつまづきを経験します²。しかしそれはあくまで統計上の数字です。あなた自身はこれまで培ってきた対処スキルとサポートネットワークによって再発せずに乗り越えることも十分可能です²。万一スリップしてしまったとしても、すぐに支援者と対処策を講じてリカバリーすることができます。
家族・周囲にできるサポート
再発の兆候はしばしば周囲のほうが先に気づく場合もあります。もしあなたのご家族やパートナーが依存症からの回復途上にいるなら、日頃から注意深く様子を見守ってあげてください。最近様子がおかしいと感じたら、早めに声をかけることが大切です。「何か辛いことがあったら話してね」「調子が悪いならミーティングに行ってみたら?」と優しく促すようにしましょう。特に借金の増加や金銭管理の乱れ、感情の起伏の激しさといった兆候は見逃さないでください³。家族が適切に指摘し支えることで、大事に至る前に軌道修正できる可能性が高まります。
ただし、家族があまりに心配しすぎて四六時中監視するような態度を取ると、本人はかえって委縮して本音を言えなくなってしまいます。基本的にはこれまで通り信頼して見守る姿勢を大切にしつつ、明らかな異変を感じたときにだけ勇気を持って介入する、というバランスが重要です。本人に対しては「あなたを見捨てたりしない、一緒に乗り越えよう」というメッセージを常に伝えておきましょう²。安心感があることで、当事者も警告サインを感じた時に相談しやすくなります。
周囲のサポートとしては、家族自身も知識を増やし続けることが挙げられます。例えば家族向けの自助グループ(ギャマノン等)に継続して参加したり、専門書や講演会で依存症への理解を深めたりすることは大いに役立ちます。依存症の問題は家族にとっても日々学びの連続です。
関連商品・ツール紹介
最後に、再発防止や回復に役立つ書籍やサービスをいくつかご紹介します。
- 書籍『ギャンブル依存症から抜け出す本』(樋口進 著): 日本における依存症治療の第一人者である樋口医師による解説書。ギャンブル依存症とは何かから治療の進め方、家族の対応策まで網羅した入門書です。専門医療機関の探し方や相談窓口の活用法など実践的なアドバイスも豊富で、当事者・家族双方に役立ちます。
ギャンブル依存症から抜け出す本 (健康ライブラリーイラスト版)
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(2025/7/1 11:38時点) - 書籍『家族のための「ギャンブル問題」完全対応マニュアル』(田中紀子 著): ご家族向けに書かれた実用書。ギャンブル依存症者を支える家族が陥りやすい間違いや、具体的に取るべき対応策(借金への対処、声かけのコツ、境界線の引き方など)を詳しく指南しています。家族が共倒れにならず健全に支える方法を学べる一冊です。
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(2025/7/1 11:39時点) - 自己規制アプリ「BetBlocker」: スマホやPCにインストールすることでオンライン賭博サイトへのアクセスを自動制限できる無料アプリです。設定後は自ら解除できない仕組みになっており、賭けたい衝動が起きても物理的にギャンブルにアクセスできなくしてくれる強力な味方です。2025年には日本語対応版もリリースされ、使いやすさが向上しています。
- オンラインカウンセリングサービス: インターネット経由で利用できるメンタルヘルス相談サービスです。自宅にいながら公認心理師や精神保健福祉士などの専門家に相談できます。対面の通院に抵抗がある方でもビデオ通話やチャットで匿名相談が可能です。料金は1回あたり数千円程度が一般的で、継続利用で割引になるプランを用意しているサービスもあります。専門家の力を借りて、再発不安への対処法を一緒に考えてもらうのも有効でしょう。
おわりに
再発の警告サインは決して無視できない重要なシグナルですが、それに気づき適切に対処することで再発は予防できます。たとえ一度や二度スリップしてしまったとしても、諦める必要はまったくありません。依存症からの回復は山あり谷ありの長い道のりです。大切なのは、兆候を見逃さずに早期に対応し、必要な支援を受けながら歩み続けることです。
どうか自分を責めすぎず、自分の回復力を信じてください。あなたがこれまで積み重ねてきた努力や、周囲の支えは決して無駄にはなりません。「今日は賭けずに過ごせた」という小さな成功を一日一日積み重ねていきましょう。その先に、ギャンブルに振り回されない平穏な人生が必ず待っています。この記事が、あなた自身の再発防止策を見直す一助となれば幸いです。
理解度チェックテスト
参考文献
- 田辺 等「『ギャンブル依存症』を訊く」(日本精神神経学会シンポジウム講演録, 2024年)
- Atlantic Behavioral Health “Gambling Addiction Relapse: Strategies for Recovery” (2024)
- 消費者庁『ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ』(啓発資料)
- 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター 依存症治療拠点「もしもスリップしてしまったら」(リーフレット)