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ギャンブル依存からの回復後に潜むクロスアディクションとは?

ギャンブル依存症から何とか回復し、「もう二度とあの辛い思いはしたくない」と心に誓った方へ。まずはここまで乗り越えてきたことに心から拍手を送りたいと思います。しかし、一息ついた今だからこそ「クロスアディクション(依存の転移)」にも注意が必要です。クロスアディクションとは、ある依存を断ち切った後に、代わりに別の依存対象にのめり込んでしまうことや、複数の嗜癖を同時に抱えてしまうことを指します。例えば、アルコール依存の人がギャンブルにもはまってしまう、またはギャンブルを止めた反動で過食に走ってしまうといったケースです。実際、日本でもアルコール依存症患者の約2割にギャンブル問題が隠れていたとの報告があり、逆に断酒後にパチンコへのめり込むといった問題が起こりがちだと指摘されています。このため自助グループの断酒会でも「お酒だけでなくギャンブルもやめましょう」と指導されるほど、依存症同士は心理的なメカニズムが非常に似ているのです。ギャンブル依存から回復したあなたも、決して意思が弱いわけではなく、脳や心の仕組みとして別の快楽に空白を埋めようとする衝動が起こりうることを知っておいてください。

この記事では、ギャンブル依存からの回復直後に特に注意したい代表的なクロスアディクションの種類と特徴を紹介し、その心理的・生理的なメカニズムを解説します。また、二次的な依存に陥らないための予防策や、万が一新たな依存が生じてしまった場合でも慌てずに対処し再び回復するための希望と具体的な支援策について、国内外の実例や研究を交えながらお伝えします。回復の道は決して一直線ではありません。「また依存してしまったらどうしよう…」という不安もあるかもしれませんが、大丈夫、あなたには何度でも立ち上がる力があり、支えてくれる人や場所があります。

 
Nana
一緒にクロスアディクションへの理解を深め、新しい人生への一歩を踏みしめていきましょう!

代表的なクロスアディクションの種類と特徴

まず、ギャンブル依存からの回復期に特に気をつけたい代表的な「依存の転移」の例を見てみましょう。ギャンブルの代わりになりやすい嗜癖として、アルコール過食買い物ワーカホリズム(仕事依存)恋愛依存スマホ・ネット依存株・FX依存などが挙げられます。それぞれどのような特徴があり、どんなリスクが潜んでいるのか、簡潔に説明します。

アルコール依存症(飲酒への依存)

ギャンブルを絶った後、代わりにお酒の力でストレスや不安を紛らわそうとしてしまうケースは珍しくありません。しかしアルコールもまた強力な依存性を持つ物質です。アルコール依存症とは、繰り返し飲酒するうちに飲酒のコントロールが自分では困難になり、健康被害や社会的問題が生じてもなお飲酒をやめられない状態を指します。単に「毎日酒量が多い」だけでなく、「飲まないと眠れない」「飲酒後の記憶が飛ぶ」「禁酒すると手が震える」などの症状が出始めたら注意が必要です。ギャンブル依存とアルコール依存は脳内報酬系に与える作用が共通する部分があり(興奮や快感をもたらす点)、実際にギャンブル依存者の多くがアルコール問題も併せ持つことが知られています。せっかくギャンブルをやめても、毎晩の晩酌がエスカレートして慢性的な飲酒に陥っては元も子もありません。

 
Miku
アルコールは手軽に入手できるだけに注意が必要ね

過食(むちゃ食い・食べ物への依存)

ギャンブルによる刺激を断った反動で、食べることに快楽を求めてしまう人もいます。特に甘いものや油っこいものなど、高カロリーの食べ物は一時的な満足感を与えてくれるため、ストレス解消の代替になりやすいのです。しかし過食もまた「やめたくてもやめられない」依存状態に進み得ます。専門家によれば、過食(むちゃ食い)は高糖分・高脂肪・高塩分の食べ物そのものに対する依存症と考えられる面があり、食べ過ぎてしまった後に自己嫌悪や抑うつ状態に陥りやすいことも報告されています。実際に過食嘔吐などの摂食障害に発展すると、体重の増減だけでなく心の健康も大きく損なわれます。ギャンブルをやめて健康を取り戻そうとしている最中に、今度は暴飲暴食で体を壊しては本末転倒です。

 
Nana
「少しくらいなら…」と自分に甘くなりすぎず、食生活の乱れにも注意しましょうね

買い物依存症(ショッピング依存)

ギャンブルで得られた興奮や満足感を、買い物行為で埋め合わせようとするパターンもよく見られます。欲しかった物を手に入れるときの高揚感は一時的に嫌なことを忘れさせてくれますが、買い物依存症ではいつしか「欲しい物を買うこと」自体が目的化し、理性で制御できなくなってしまうのです。買い物依存症は正式な病名ではありませんが、俗にこう呼ばれ、繰り返し無計画なショッピングをしてしまう状態を指します。典型的には、「ストレス発散のつもりが気づけばクレジットカードの請求が毎月凄い額に…」「必要ない物まで衝動買いしてしまい、家に未開封の品物が山積み」といった状況です。買っている最中は気分が高揚し快感がありますが、その後に浪費による罪悪感や自己嫌悪が押し寄せます。最悪の場合、借金を重ね自己破産に至るケースすらあります。

 
Miku
ギャンブルで作った借金を返したばかりなのに、今度は買い物で借金を…ということにならないよう、金銭管理と購買行動には細心の注意が必要ね

ワーカホリズム(仕事依存・仕事中毒)

一見すると「仕事熱心」なことは良いことのように思えますが、行き過ぎるとワーカホリック(仕事中毒)という依存状態になり得ます。ギャンブルに費やしていた時間やエネルギーを全て仕事に振り向け、「働いていないと落ち着かない」「プライベートの時間も常に仕事のことを考えてしまう」といった状態は要注意です。ワーカホリズムとは本来生活の糧を得る手段である仕事に、私生活や健康を犠牲にして没頭してしまう状態を指します。適度な労働意欲を超えて、休息を取らず働き続けてしまうため、肉体的・精神的な疲弊が蓄積し、人間関係もおろそかになりがちです。周囲からは「真面目で頑張り屋さん」と評価されるかもしれませんが、本人は心の空虚感や不安から逃れるために働くことに依存している可能性があります。最悪の場合、過労による健康被害(過労死や燃え尽き症候群など)につながるリスクも指摘されています。

 
Nana
ギャンブルをしなくなった分の時間を有意義に使うのは素敵だけど、休息や趣味の時間とのバランスを取って、「働きすぎ」という別の問題にも十分気を配らなきゃいけないわね

恋愛依存症(人間関係・愛情への依存)

ギャンブルという“物”の代わりに、“人との関係”にのめり込んでしまうパターンもあります。特に恋愛依存症は回復期の孤独感や寂しさを埋め合わせようとして陥りやすい落とし穴です。恋愛そのものに異常な執着を示し、「恋人がいないと生きていけない」「常に誰かに愛されていたい」という状態になってしまうのが恋愛依存症の特徴です。正式な精神医学の診断名ではありませんが、恋愛に没頭するあまり日常生活に支障をきたすレベルであれば問題です。例えば、「相手からのLINE返信が少し遅れただけで不安で仕方なくなる」「恋人中心で他のことが手につかない」「嫌われたくない一心で相手に尽くしすぎて自分を見失う」など、思い当たる節はないでしょうか。ギャンブル依存の裏にも孤独感や自己肯定感の低さが潜んでいることがあります。同じ根っこを持つ恋愛依存も、放置すると共依存的な破綻した人間関係や、ストーカー行為など深刻な事態を招きかねません。

 
Miku
自分の軸をしっかり持って、一人の時間を楽しむことが何よりの克服法ね。まずは自分自身に対する愛情と自信を取り戻すことから心がけていきましょうね

スマホ・ネット依存(オンラインゲーム・SNSなど)

現代ならではのクロスアディクションとして増えているのがスマホやインターネットへの依存です。ギャンブルを断ち切った後、暇つぶしや気晴らしのつもりで始めたスマホゲームやSNSチェックにどっぷりハマってしまうケースがあります。スマホやネットは常に新しい刺激や情報を与えてくれるため、脳内でドーパミンが分泌され続け、気づかぬうちに依存状態になることがあります。スマホ依存が進むと現実の生活よりもネットの世界を優先し始め、日常生活とネット世界の区別がつかなくなるほど没頭してしまう人もいます。例えば「夜更かしして延々と動画やゲームを続け、昼夜逆転する」「スマホが手元にないと落ち着かずイライラする」といった状態です。家族が心配してスマホを取り上げようとすると激しく抵抗・怒りを示す場合もあり、ネット断ちしようとすると禁断症状に似た反応が出ることさえあります。ギャンブルと同様、ネットも「やめさせられそうになると攻撃的になる」「問題が起きてもやめられない」といった共通点があります。

 
Nana
スマホは便利だけど、利用時間を制限する、自動通知を切るとか、セルフコントロールを心がけて、生活がネット漬けにならないよう注意しましょうね

株・FX依存(投機・投資への依存)

ギャンブル好きだった人が株式投資やFX取引にのめり込んでしまう例も見受けられます。一見、投資はギャンブルとは異なり「資産運用」と捉えられがちですが、ハイリスク・ハイリターンの商品にのめり込む場合、その心理はほとんどギャンブルと同じ状態になり得ます。特にFX(外国為替証拠金取引)や先物取引、仮想通貨などは値動きが激しく、一瞬で大きく儲かることも損することもあります。このスリルと興奮はまさにギャンブルと共通の刺激であり、「株式市場のコカイン」とまで呼ぶ人もいるほど強烈な依存性を帯びうるものです。実際、アメリカの自助グループ(GA=ギャンブラーズ・アノニマス)の集会には、ラスベガスのカジノではなく株取引アプリにハマって巨額の損失を抱えた人たちが新たに参加し始めているという報告もあります。彼らの中には「大勝ちした快感が忘れられず、借金までして追加投資を繰り返した」というケースもありました。ギャンブル依存だった人にとって、株やFXは「合法で一見健全そうに見えるギャンブル」のようなものです。「投資だから大丈夫」と油断せず、のめり込みには十分警戒しましょう。

 
Miku
健全な資産運用は専門家の助言を仰ぎつつ計画的に行って、一獲千金を狙う投機的な売買はギャンブルと紙一重だという認識を持つことが大切よね

以上、代表的なクロスアディクションの種類を見てきました。これらはいずれもギャンブル依存と共通する「快感のパターン」を持っています。「勝って興奮する」「嫌な気分を忘れられる」「手軽に達成感を得られる」など、脳が勘違いしやすい要素があるのです。そのため、ギャンブルをやめてもこれら別の対象が“第二のギャンブル”になりうる点に注意しましょう。

クロスアディクションが起きる心理・生理的メカニズム

なぜギャンブルをやめた直後に、他の依存に置き換わってしまう危険があるのでしょうか。その背景には、脳の報酬系メカニズム心理的な要因の両面があります。

 
Nana
クロスアディクションが起こる仕組みを、生理面と心理面から解説していきますよ!

脳内報酬系と依存の連鎖(生理的メカニズム)

私たちの脳には、「報酬系」と呼ばれる快感を感じる神経回路があります。美味しいものを食べたり、運動して爽快感を得たり、誰かに褒められて嬉しかったりするときに、この報酬系からドーパミンなどの神経伝達物質が放出され、「またそれをしたい!」というモチベーションが生まれます。本来は生存に必要な行動(食事・性行為・達成感など)を強化するための仕組みですが、ギャンブルやアルコールなど依存性のある行為・物質はこの報酬系を強力に刺激することが知られています。

ギャンブルで大勝ちしたとき、興奮で「胃がムカムカするほど」の高揚感を覚えたり、「手に汗握るスリル」を感じたりした経験はありませんか?それは脳内で大量のドーパミンやノルアドレナリンが放出された結果です。実際、ギャンブルが脳に与える影響はコカインなど薬物と同じ部位(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの神経系)に作用することが研究で示されています。つまり、ギャンブルは脳にとって一種のドラッグ(薬物)と似た効果を持つわけです。

この「快感回路のクセ」が厄介で、ギャンブルをやめても脳は以前と同じような強い刺激や報酬を求め続けます。長年依存行動を続けると、脳はそれに慣れてしまい、普段の生活の中では快感物質の分泌が不足した状態(いわゆる報酬欠乏)になります。

 
Miku
その結果、日常のささやかな楽しみでは物足りずに、脳は手軽に強い刺激を得られる他の行為に飛びつこうとしてしまうのね…

例えば、ギャンブルをやめた直後によく甘いものを欲しがる人がいます。これは体が糖分で脳内報酬系を満たそうとしているサインとも言われます。一見無害そうな行動でも、脳にとっては「次の快感をくれるものは何か?」とアンテナを張っている状態だと考えられます。

さらに厄介なのは、脳は良いことと悪いことの区別がつかないという点です。報酬系は「それをすると気持ちいいかどうか」しか判断しないため、たとえ健康に悪かろうが社会的に問題があろうが、お構いなしに欲求を出してきます。ギャンブルであれ飲酒であれ、「もうダメだ、やめたい」と理性では思っていても、脳は「快感が欲しい、またやろう」と囁いてくるわけです。

総じて、一つの依存症に陥った人は他の依存にも陥りやすい脳の状態になっていると言えます。これがクロスアディクションの生理的基盤です。ギャンブルをやめても脳の報酬系回路自体はすぐには元に戻りません。むしろ報酬系が敏感になっているぶん、新たな刺激に対して脆弱になっていることを自覚する必要があります。

ストレス・感情と「心の空白」(心理的メカニズム)

生理的な要因に加え、心理・感情面の要因もクロスアディクションには深く関わっています。依存症はよく「心の病」とも言われますが、その背景にはストレスの問題感情コントロールの問題が潜んでいます。

ギャンブルにしろアルコールにしろ、依存行為に走る人は往々にして現実の苦しさや空虚感から逃れたいという思いを抱えています。実際、ギャンブルや酒、買い物などにのめり込む行為はストレスから逃避しようとする衝動的な自己治療だと指摘されています。例えば「職場で嫌なことがあった→パチンコ屋に行けば忘れられる」「寂しくて落ち込む→お酒を飲めば紛れる」といった具合に、問題から目を逸らすための手段として依存行為を利用してきたわけです。

その根本の問題(ストレスの原因やトラウマ、寂しさの正体など)が解決されないまま表面的にギャンブルだけやめても、心の空白や未解決の感情は依然として残ったままです。すると人は無意識のうちに「別の何か」でその穴を埋めようとします。これがクロスアディクションの心理的メカニズムです。実際、依存症患者さんの回復支援においては「なぜ自分はギャンブル(または他の依存行為)をせずにいられなかったのか」という背景要因の分析が重要だとされています。

 
Nana
ギャンブルを必要とした心理(承認欲求の不足、幼少期のトラウマ、慢性的な不安や抑うつなど)を丁寧に見つめていかない限り、形を変えた依存行為が次々と現れる可能性があるってことね

具体的な例として、未解決のトラウマや抑うつ・不安などの精神的問題を抱えている人は、それを紛らわすためにアルコールや薬物、過度のゲームなどに走りやすいことが知られています。たとえば「人間関係の不安から逃れるためにオンラインゲームの世界に没頭する」「寂しさを埋めるために恋愛に依存する」「過去の心の傷の痛みを和らげるためにお酒や薬に頼る」といった具合です。そしてこれら代替行為は一時的には心を紛らわせてくれるため、かえって根本問題に向き合う機会を先送りしてしまいます。その結果、問題は解決しないまま依存行動だけが残り、また深みにはまってしまうという悪循環に陥ります。

また、「空虚感」もキーワードです。ギャンブル依存症の回復過程では、ギャンブルで埋めていた時間や興奮がなくなることでぽっかり心に穴が空いたような感覚に襲われることがあります。この虚しさや退屈感もクロスアディクションを引き起こす誘因になります。「生きがいがなくなった」「毎日が退屈だ」と感じると、人は再び強い刺激や充足感を求めずにいられなくなります。そのタイミングで手近にある快楽(甘い物、ネット、性的な関係など)に飛びついてしまうのです。

そして、心理的メカニズムでもう一つ重要なのが「認知の落とし穴」です。ギャンブル依存から回復した人は、「もう二度とあんなものに手を出すもんか」という強い決意がある一方で、他の対象に対しては警戒心が薄れがちです。「自分は酒には強いから大丈夫」「仕事に打ち込むのは良いことだ」「SNSくらい息抜きになるだろう」と、新しい行動のリスクを過小評価してしまう傾向があります。しかし、これは大きな落とし穴です。依存症経験者は基本的に他の依存対象にもハイリスクだと心得てください。例えばアルコール依存症だった人が「自分は処方された鎮痛薬だから平気」と思って薬を乱用し依存してしまったり、ギャンブル依存だった人が「投資なら稼げるし問題ない」と思ってFXにのめり込んでしまったりするケースが実際にあります。

 
Miku
「今回は違うから大丈夫」という油断こそがクロスアディクションを招iいてしまうのね

以上のように、生理的には脳の快感を求める性質と依存による脳内変化、心理的にはストレス・感情からの逃避や心の空白、認知の落とし穴が重なり合って、クロスアディクションが起こります。決して意思の弱さではなく、誰にでも起こりうる脳と心の反応だということを理解してください。その上で、「自分は特に注意が必要なんだ」と自覚することが、次の予防策を実践する第一歩となります。

二次依存を防ぐための予防策

クロスアディクションのリスクを踏まえた上で、二次的な依存に陥らないためにはどのような対策が有効かを考えてみましょう。ポイントは、先ほど述べた生理的・心理的メカニズムへの対処です。

 
Nana
具体的な予防策を見ていきましょう!
  • ストレスマネジメント(健全なストレス対処法の確立):依存に走る大きな引き金はストレスです。ギャンブル以外で日々のストレスを発散・解消できる健康的な手段をいくつか持っておきましょう。例えば、適度な運動や散歩、日記やブログを書いて気持ちを吐き出す、音楽やアートに触れる、リラックスのための入浴や呼吸法を取り入れるなど、自分に合った方法を探してください。趣味や楽しみを再発見することも重要です。「ギャンブル以外で楽しいと思えることなんて無い…」と思うかもしれませんが、小さなことでも構いません。料理やガーデニング、読書、ゲーム、スポーツ観戦など、何でも良いので生活にハリを与える習慣を意識的に作りましょう。ストレスを感じてもそれを紛らわす健全な手段がある人は、再び有害な快楽に手を出すリスクが格段に下がります。逆にストレスを溜め込んだままだと、脳は古い快楽パターン(依存行為)に回帰しようとします。イライラや不安を感じたら要注意のサインと思い、早めに対処してください。
  • ソーシャルサポート(支えてくれる人との繋がり):孤独や孤立も依存を深める大きな要因です。回復後は特に家族や友人、同じ経験を持つ仲間との繋がりを大切にしましょう。恥ずかしがらずに自分の状態を身近な人にオープンにし、「実は今○○にハマりそうで怖い」と相談できると理想的です。定期的に自助グループのミーティングに参加するのも非常に効果的です。仲間と経験や気持ちを分かち合うことで、自分では気づかなかった問題点に気づけたり、新しい対処法を教えてもらえたりします。「自分だけがこんな思いをしているのではない」と実感できることで安心感が生まれ、衝動を抑える助けにもなります。もちろん家族や友人との時間も大切です。誰かと一緒に食事をする、一緒に運動する、電話で話すなど、他者との交流は心の栄養になります。孤独を感じる時間をなるべく減らし、「何かに依存しなくても自分は一人じゃない」と思える環境を整えましょう。逆に一人きりでいるときに強い衝動が出やすいので、「危ないときは誰かに電話する」などSOSを出す練習もしておくと良いでしょう。
  • 専門家によるモニタリング(継続的な専門支援):ギャンブル依存を治療した病院やクリニックで、定期的なフォローアップを受けることも予防に役立ちます。精神科医やカウンセラーに経過を報告し、状態をチェックしてもらうことで、もし新たな依存の兆候が見られた場合にも早期に対処できます。治療者との約束事として「他の依存対象にも注意して生活する」と決めておくのも良いでしょう。場合によっては薬物療法の助けが有効なケースもあります。たとえばアルコール依存になりかけている場合は断酒補助薬を検討するとか、ひどい不安症状が二次的に出ているなら抗不安薬を短期的に用いるなど、専門家は適切な対処法を知っています。「もう治療は終わった」と油断せず、アフターケアの一環として専門家との繋がりを保つことが大切です。実際、依存症の再発予防には1年以上の継続的なフォローが推奨されます。退院・治療終了後少なくとも一年は特に警戒期間と考え、月一回でも通院やカウンセリングを受けると安心です。
  • 生活習慣と環境の整備:依存行為に走らないよう、日頃の生活リズムや環境を整えることも効果があります。例えば睡眠不足や体調不良は意思の抑制力を弱めますので、しっかり睡眠をとり栄養バランスの良い食事を心がけましょう。また、ギャンブルをしていた時間帯に他の予定(趣味や運動、勉強など)を入れて「暇な時間」を作らない工夫も有効です。さらには、新たな依存の種になりそうなものを身近に置かないことも大事です。例えば「部屋にお酒を置かない」「深夜はスマホの電源を切る」「使わないクレジットカードは解約する」「株やFXのアプリは入れない」といった具体的な対策を講じましょう。これは環境からの誘惑刺激を減らす意味でとても有効です。自分の意志だけに頼るのではなく、仕組みで衝動を防ぐのがポイントです。
  • 自分の変化に気づくセルフモニタリング:最後に、自分自身で心と体の状態を観察し、早め早めにケアする習慣をつけましょう。例えば日記や感情記録をつけていると、「最近イライラが募っている」「○曜日は特に気分が落ち込みやすい」といったパターンに気づけます。兆候に気づいたら、早速上記のストレス対処やサポート活用を実践してください。「HALTの法則」という有名なセルフチェックがあります。これはHungry(空腹), Angry(怒り), Lonely(孤独), Tired(疲労)の頭文字をとったものです。これら4つの状態は依存欲求を高めると言われます。空腹だと血糖値の低下でイライラしやすくなり、怒りは衝動的な行動を誘発し、孤独は心の空洞を生み、疲労は判断力を鈍らせます。ぜひ日々「自分はいまHALTになっていないか?」と問いかけてみてください。該当する状態があれば、まずそれをケアすることです(例えば間食を取る・深呼吸する・誰かと話す・早めに休む等)。自分の不調やストレスに気づき対処できれば、二次的な依存の芽を摘むことができます。

これら予防策を実践することで、クロスアディクションの誘惑に対する「免疫力」を高めることができます。しかし、人間ですから完璧ではありません。どれだけ注意していても、心が弱っている時や不意の出来事が重なった時など、誰しも再び依存に逃げたくなる瞬間があるものです。大切なのは、もし一度でも他の依存に手を出してしまったとしても自分を責めすぎないことです。「こんなに気をつけていたのにダメだった」と絶望する必要はありません。

 
Miku
次章では、万が一クロスアディクションが起きてしまった場合の対処法と、再び立ち直るための支援についてお話ししますよ

二次依存が起きてしまった場合でも大丈夫:再回復のために

仮にあなたがギャンブルをやめた後に別の依存に陥ってしまったとしても、決して諦めないでください。回復のチャンスは何度でもあります。実際、依存症からの回復はまっすぐな一本道ではなく、少し戻ったり横道に逸れたりしながらも前進していくスパイラル状のプロセスだと言われます。二次的な依存に陥ったことに気づいたら、「自分はなんて意思が弱いんだ」と自分を責めるよりも先に、「また回復への第一歩を踏み出そう」と考えてみてください。

再び立ち直るための心構え

まずお伝えしたいのは、二次依存も含めて回復は可能だという事実です。世界的な依存症治療の現場では、複数の依存症に対して共通する治療プログラム(例えば12ステッププログラム)が有効であることが確認されています。つまり、ギャンブル依存を克服する中で培った「一日断つ」「仲間と支え合う」「自分を見つめ直す」といったスキルや姿勢は、他のどんな依存の回復にも応用できるのです。実際、アルコール依存の自助グループAAで学んだことがギャンブル断ちにも役立ったという人もいますし、その逆も然りです。ですから、「またゼロからやり直しだ…」と気落ちする必要はありません。

 
Nana
経験を踏まえてより賢い戦略で再挑戦すれば大丈夫ってことよね

次に、二次依存に陥った自分を恥じたり隠したりしないことです。依存症は病気であり、適切なサポートを受ければ回復できるものです。ここで恥ずかしさから孤立してしまうと、ますます抜け出しにくくなります。「助けてほしい」と声を上げる勇気を持ってください。周囲の理解や支援を得ることは決して甘えではなく、再び立ち直るために必要不可欠なプロセスです。

実際に、海外の自助グループでは株やオプション取引に依存して借金を負った人や、複数の嗜癖を抱えた人が恥を捨てて仲間に助けを求め、一年かけて見事に断ち続けているという実例があります。ある若い男性は株の「最後の賭け」から1年ギャンブル(投機)断ちを達成し、母親と恋人を連れてミーティングに参加し仲間と祝ったそうです。このように再出発は何度でも可能であり、むしろ一度挫折を経験した人の方がより強い回復者になれるというケースも少なくありません。

再回復の鍵は、最初の回復時と同様に「今この瞬間からできること」に集中することです。【今日一日だけやってみよう】というスローガンがありますが、まさにそれで、過去の失敗をくよくよ悔やんだり「一生○○しないなんて無理だ」と先のことを考えすぎたりせず、とりあえず「今日一日だけ新しい依存行為を断ってみる」ことから始めましょう。もし耐えきれなければ明日はまたやればいい、くらいの気持ちで大丈夫です。一日できたらそれを自信に、明日も続けてみる。

 
Miku
小さな成功体験を積み重ねることが、結果的に大きな変化につながるってことね

また、二次依存に対処するときこそ、元の依存症の治療で学んだことを思い出してください。例えば、渇望の対処法(気を紛らわす方法、食欲や睡眠のコントロール)、トリガーの回避法(環境調整)、感情への対処(アンガーマネジメントやリラクゼーション)などです。それらは決して無駄にはなっていません。むしろ今こそ活かすときです。同じ原理できっと乗り越えられる、と自分を信じましょう。

再治療の入り口となる窓口紹介

再び立ち直る決意をしたら、一人で抱え込まず専門的な支援に繋がることが成功への近道です。幸い、現在の日本には依存症からの回復を支援する窓口が数多く用意されています。

 
Nana
再治療の入り口となる主な窓口をいくつかご紹介しますね
  • 医療機関(病院・クリニック):依存症専門の外来や精神科・心療内科のある病院を受診しましょう。以前治療を受けていた場合は同じ医療機関に再度相談するのも良いですし、新たに依存症治療の実績がある施設を探しても構いません。たとえば、国立病院機構久里浜医療センター(神奈川)は依存症専門治療で有名ですし、各地域にも依存症専門医療機関や専門外来があります。医師による診断のもと、必要に応じて入院治療や薬物療法、カウンセリングなど包括的なプログラムを受けることができます。「病院に行くなんて大げさかな…」と迷う必要はありません。依存症はれっきとした医療で扱うべき疾患です。遠慮せず専門家の力を借りましょう。
  • 行政や支援団体の相談窓口:お住まいの自治体には精神保健福祉センター保健所に依存症相談窓口があります。そこで相談すれば、適切な支援機関の紹介やカウンセリング、一時的な精神面のサポートが受けられます。また、民間の支援団体やNPOも数多く活動しています。例えば、ギャンブル依存症問題を扱う「ギャンブル依存症を考える会」や、薬物依存ならダルク(DARC)、アルコール依存なら断酒会やASKといった団体があります。それぞれ電話相談や面談に応じてくれますし、必要に応じて専門医療や自助グループに繋いでもくれます。行政と民間が連携して支援ネットワークを作っている地域も多いので、「○○県 依存症 相談」などで検索してみるのも良いでしょう。無料で匿名相談できる電話窓口もあります(厚生労働省の依存症相談窓口リスト等参照)。一人で悩まず、まずは話を聞いてもらうことから始めてみてください。
  • 自助グループ(当事者会):自助グループは当事者同士が体験と希望を分かち合いながら、共に問題からの回復を目指す仲間の集まりです。ギャンブル依存なら「ギャンブラーズ・アノニマス(GA)」、アルコールなら「アルコホーリクス・アノニマス(AA)」、薬物なら「ナルコティクス・アノニマス(NA)」、過食なら「オーバーイーターズ・アノニマス(OA)」といった具合に、依存対象ごとに全国各地で定期的にミーティングが開催されています。自助グループは治療施設とは異なり参加は自由で無料、基本的に匿名で行われます。「自分も同じ問題を抱える仲間なんだ」と受け入れてもらえる安心感があり、ミーティングでの発言も強制ではなく聞いているだけでも構いません。自分のペースで通い続けることで、不思議と心の安定が保たれ、回復につながることが世界中の経験から確認されています。実際、日本国内でもGAのミーティンググループは現在200以上に増えており、参加を長期継続することで症状の安定と社会復帰を果たす人が数多くいます。一度きりの参加では効果は分からないかもしれませんが、ぜひ騙されたと思って数ヶ月ほど続けてみてください。きっと仲間たちの存在が大きな支えとなり、再発防止の力になるはずです。
  • 家族・周囲の協力:当事者ではありませんが、家族教室や家族の自助グループも各地にあります(ギャンブル依存者の家族向け「ギャマノン」など)。家族が依存症を正しく理解し対応を学ぶことで、当事者の回復をより確実にすることができます。もし身近に支えてくれるご家族やパートナーがいる場合は、そういったプログラムへの参加を促してみるのも良いでしょう。周囲の人もまた一緒に問題に向き合い、サポートの仕方を学ぶことで、チームとして依存症に立ち向かうことができます。家族がいない方でも、信頼できる友人や先輩などに協力をお願いするのは有効です。通院や自助グループへの同行をお願いしたり、定期的に声をかけてもらうよう頼んだりしてみましょう。再回復は周囲の協力を遠慮なく借りて良いのです。

最後になりますが、あなたが再び立ち直ろうとする決意自体が素晴らしい勇気です。一度目の回復のときと同様、いやそれ以上に、あなたは多くのことを学び、成長しているはずです。どうか自分をあきらめないでください。クロスアディクションという壁にぶつかったからこそ、より深く自分の心と向き合い、人生をより良い方向へ変えていくチャンスでもあります。

そして、もし今まさに二次的な依存に苦しんでいる方がこの記事を読んでいるなら、こう伝えたいです。「遅すぎる」ということは決してありません。何度でもやり直せます。同じ過ちを繰り返しているように感じても、少しずつ確実に前とは違うあなたになっているはずです。回復への階段を上がる途中でつまずいたら、一段下がってまた踏み出せば良いのです。そのたびにあなたの足腰(心)は前より強くなっています。

依存症からの回復は一人では困難ですが、幸いなことにこの社会にはあなたを支える手がたくさん差し伸べられています。どうかその手を掴んでください。専門家も、支援者も、仲間も、みんなあなたの回復を信じています。二次依存を乗り越え、再び笑顔で「自分らしい人生」を取り戻したとき、あなたの物語はさらに輝きを増すでしょう。

 
Miku
私たちも心から応援していますよ!一緒に一日一日、前を向いて歩んでいきましょう✊
 
Nana
今日もここまで読んでくれてありがとう♡ お疲れさまでした!
 
Miku
理解度チェックテストも忘れずにね! またねー✌

「やめた後」に要注意!クロスアディクション理解度チェック(全10問)

参考文献

  1. 鳥取県依存症支援拠点機関 渡辺病院「依存症(アディクション)を理解する」
  2. Florida Council on Compulsive Gambling, Inc. Blog “Cross Addiction Explained: How Another Addiction Can Lead to a Gambling Problem” (2025年)
  3. 沖縄県依存症対策連絡協議会(村上院長講演録)「ギャンブル依存の課題・対処法に関して」(2008年)
  4. Hazelden Betty Ford Foundation “What Is Cross-Addiction?” (2019年)
  5. New Day Recovery “6 Surprising Cross Addiction Facts To Help You Understand It” (2021年)
  6. 早稲田メンタルクリニック院長コラム「アルコール、ギャンブル、買い物、過食嘔吐などの依存症について」(2021年)
  7. 大石クリニック「依存症の種類と分類(クロスアディクションの解説)」
  8. 大石クリニック「買い物依存症とは」
  9. 札幌太田病院「過食症(むちゃ食いと食物依存について)」
  10. Wikipedia(日本語)「仕事中毒(ワーカホリック)」
  11. ゼクシィ縁結びエージェント コラム「恋愛依存症とは? 陥りやすい人の特徴・原因から克服方法まで」
  12. 大石クリニック「ネット依存(ゲーム障害、スマホ依存症)とは」
  13. The Wall Street Journal(ダイヤモンド・オンライン翻訳)「株式市場の『コカイン』、依存者が増加」(2024年)
  14. 大村枝里 (京都大学)「ギャンブル依存症の理解の変遷と新たな展開」 臨床教育実践研究センター紀要 第26号 (2023年)
  15. 公益社団法人 日本精神神経学会 一般向けQ&A「田辺等先生に『ギャンブル依存症』を訊く」(2024年)
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