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ギャンブル依存症の再発時に家族が取るべき対応と支援策

ギャンブル依存症からの回復過程では、残念ながら再発(リラプス)に直面する可能性があります。実際、治療中に一度も再発を経験しない人の方が少ないほど再発はよくある出来事です。家族にとって、努力を続けてきた矢先の再発発覚は大きなショックでしょう。しかし、再発は決して回復の終わりではなく、むしろ回復を強化するチャンスでもあります。重要なのは、家族が動揺に飲み込まれず、建設的に対処することです。ギャンブル依存症の問題行動は家族とのコミュニケーション次第で悪化も改善もするといわれます。本記事では、再発直後から家族が取るべき具体的な行動や支援策について解説し、再発にショックを受けた家族がどのように建設的に本人を支えられるか、専門知識と実例を交えて紹介します。


再発は、回復への明るい道と依存症の深みに戻る暗い道との岐路に立つようなものです。左の明るい道は支援を受けて回復を続ける未来、右の暗い道はギャンブルに逆戻りする危険を象徴しています。家族は、依存症者が明るい道を選び直せるよう寄り添い支えることが求められます。

よくある再発シナリオと兆候

まず、どのような状況で再発が起こり得るのか具体的な例を見てみましょう。再発は本人の生活上の出来事や感情の変化と結びついて起こることが多く、そのきっかけ(トリガー)は様々です。

  • ケース1: 給料日にまとめて浪費してしまう – 例えば、「断ギャンブル」を継続していた夫が給料日直後にパチンコ店に立ち寄り、気づけば給料の大半をつぎ込んでしまったというケースです。それまで数ヶ月間ギャンブルを断っていた中、仕事での疲労やストレスが限界に達し、魔が差してしまったのかもしれません。大金が手元に入るタイミングやストレスの高まりは再発の誘因になりやすく、本人も「ほんの一度だけ」のつもりが歯止めがきかなくなることがあります。
  • ケース2: オンラインギャンブルに手を出してしまう – 例えば、若い息子が通勤中のスマホ広告に誘惑され、ネットカジノに好奇心からアクセスしてしまい、その後何度もオンライン賭博を繰り返してしまったケースです。オンラインギャンブルは手軽で24時間アクセスできるため、一度始めると日常生活の合間にも繰り返しやすい特徴があります。現代ではスマホひとつでカジノや賭け事ができてしまうため、その利便性と匿名性が再発の温床になり得ます。

上記のようなシナリオでは、本人も当初は「もう二度としない」と誓っていたのに、お金を手にした瞬間の誘惑ストレス・感情の高ぶりに負けてしまっています。一般的に再発の引き金となるのは、経済的な余裕が突然生まれた時(給料日やボーナス等)、生活上の大きな変化や不安、イライラや落ち込み、退屈さや孤独感といったネガティブな感情などです。例えば「退屈や孤独を紛らわしたい」「ストレスから逃れたい」という思いから再びギャンブルに走ってしまうことが指摘されています。家族としては、こうした兆候や背景にも目を向けることが大切です。

再発発覚直後:家族が取るべき行動(時系列)

再発が判明した直後、家族は混乱や怒り、失望など様々な感情に襲われるでしょう。しかし初動を誤ると、事態を悪化させてしまう恐れがあります。以下に、再発直後から取るべき行動を時系列で整理します。

  1. まず深呼吸し、心を落ち着ける: 衝撃的な事実に直面すると感情的に責めたり怒鳴ったりしたくなるかもしれません。しかし、最初の対応こそ冷静さが肝心です。深呼吸をして気持ちを落ち着かせましょう。家族が激情に駆られて非難すると、本人は防衛的になり真実を隠したり、更なるギャンブルの継続(ヤケになって自暴自棄になる等)に走る危険があります。まずは「起こってしまったことは元に戻せない。これから何ができるか」と心に言い聞かせ、感情のコントロールを最優先してください。
  2. 本人と穏やかに状況を確認する: 家族が落ち着きを取り戻したら、できるだけ早い段階で本人と向き合い、今回何が起きたのか事実関係を確認しましょう。この際、「どうしてまた!」「約束が違うじゃない!」と責め立てるのは逆効果です。相手が話しやすいよう静かな口調で、「何があったのか教えてくれる?」と促してください。何にお金を使ったのか、負債はどの程度か、今後の生活に直ちに支障が出る事態か等を把握します。ただし尋問のようにならないよう注意し、あくまで本人の話に耳を傾ける姿勢を示します。本人にとっても再発直後は自己嫌悪や罪悪感でいっぱいの時期です。家族が頭ごなしに詰問すると心を閉ざし、「嘘をついてでも隠れギャンブルを続けよう」という方向に行きかねません。事実確認は冷静かつ相手を尊重する態度で行いましょう。
  3. 専門家に早期に連絡・相談する: 状況を把握したら、できるだけ早く専門家へ連絡します。すでに治療プログラムやカウンセリングを受けている場合は、主治医やカウンセラーに再発の事実を伝え、今後の対応方針について相談してください。治療者は再発場面の対処に熟達していますし、必要に応じて面談日程を早めてもらえることもあります。治療者につながっていない場合でも、各地域の依存症相談窓口や専門機関に家族から相談して構いません。再発後はできるだけ早期に専門的サポートを仰ぐことが肝要です。例えば精神保健福祉センターや依存症治療専門医療機関に電話相談すれば、適切なアドバイスや受診案内を受けられます。家族が先に動くことで、本人も「自分一人で抱え込まなくていいんだ」と感じられ、治療に再び橋渡ししやすくなります。
  4. 金銭管理の緊急見直しを行う: 再発した直後は、金銭面の流出を最小限に食い止める措置も必要です。具体的には、残っている現金や預貯金の管理方法を見直します。例えば家族が当面の間、本人のキャッシュカードやクレジットカードを預かり管理する、オンラインバンキングのパスワードを変更する、といった対策が考えられます。また、消費者金融から新たな借金をしないよう、必要に応じて信用情報の開示請求や借入状況の確認も検討します。ギャンブル資金源を断つため、家計の財布を握り直し、経済的な「監視」とサポートを強化しましょう。これは本人を信用しないという意味ではなく、「もう後がない」という緊張感を本人に持たせるための環境調整です。同時に、給料が出たら生活必需の支払いを真っ先に済ませる、現金をできるだけ持たせない等、再発防止に向けたお金の管理ルールを家族で取り決めます。必要であればファイナンシャルプランナーや公的な多重債務相談窓口に家族と本人で出向き、今後の返済計画や金銭管理について専門家の助言を得るのも有効です。
  5. 本人の安全とメンタルヘルスの確認: 再発直後、本人は極度の落胆や自己嫌悪に陥りがちです。場合によっては「自分なんかもうダメだ」と絶望し、うつ状態になったり自暴自棄になる恐れもあります。家族は本人の精神的・身体的安全を確かめることも重要です。睡眠は取れているか、食事は摂れているか、仕事に支障は出ていないかを観察し、異変があれば医療機関につなげましょう。また、「死にたい」といった発言があれば決して見過ごさず、精神科受診や自殺防止の専門窓口にすぐ相談してください。ギャンブルによる深刻な再発ケースでは、一時的に入院治療が必要になることもあります。家族として最も大切なのは、本人の命と健康を守ることです。お金の問題以上に、まずは本人がこれ以上自分を傷つけないよう寄り添い見守りましょう。
  6. 再発を受け止め前向きに声かけする: 落ち着いて話せる状況になったら、家族から前向きなメッセージを伝えることも大切です。例えば「また一緒に頑張ろう。今回は専門家にも助けてもらって乗り越えようね」といった具合に、本人を見放すつもりがないこと、今回の出来事を今後に活かそうという姿勢を示します。再発直後は本人も「もう信頼を取り戻せないのでは」と不安を抱えています。家族として愛情と支援の意思があることを明言し、しかし同時に問題解決に向け行動する意思表示をするのです。これは甘やかすこととは違います。「あなたをサポートする気持ちは変わらない。でも今度こそ専門の助けを借りて本気で治療に取り組もう」というスタンスを伝えましょう。本人が絶望に陥らず早期に立ち直りへ向かうために、家族の励ましは不可欠です。こうして再発後できるだけ早期に本人の「断ギャンブル」の再開を促し、回復プログラムへの復帰につなげていきます。
  7. 家族自身のサポート確保: 忘れてはならないのは、家族自身も大きな精神的負担を負っているという点です。再発の事実に直面して動揺しながらも冷静に対応することは容易ではなく、家族もまたストレスや悲しみ、怒りを抱えています。そこで、家族も自身のための相談先やサポートを持つことが重要になります。信頼できる親族や友人に話を聞いてもらう、家族向けの自助グループ(後述の「家族会」)に参加して同じ立場の人の経験談を聞く、必要であればカウンセリングを受けて感情を整理するなど、家族もケアを受けましょう。特に、「自分の対応が悪かったのではないか」「自分にも責任があるのでは」と自責の念に駆られる家族もいます。しかし専門家は「ギャンブル依存症は家族のせいではない」と明言しています。辛い気持ちは一人で抱え込まず、専門家やサポート団体に打ち明けてください。家族が心身の健康を保つことは、巡り巡って本人の回復を支える土台にもなります。

以上が再発直後から数日以内に家族が取るべき主な対応です。次章からは、再発の原因分析と再発予防策、そして家族の接し方のポイントについてさらに詳しく見ていきましょう。

再発の原因を分析し再発防止策を立てる

ギャンブル依存症の再発を乗り越えるには、「なぜ再発してしまったのか」を分析し、今後に活かすことが欠かせません。再発は偶発的に起こるのではなく、必ずそこに至るまでの経緯や引き金があります。それらを本人・家族が理解することで、同じ轍を踏まない対策が立てられるのです。

トリガー(引き金)の特定

まず行うべきは、今回の再発の引き金(トリガー)になった要因を特定することです。専門家との面接や家族との話し合いの場で、「どういった状況・気分のときにギャンブルしてしまったのか」を振り返ります。例えば以下のような問いかけが有効です。

  • 「今回、ギャンブルに手を出してしまった直接のきっかけは何だったのか?」
    例:給料日で手元に現金があった/仕事で大きなミスをして落ち込んでいた/友人にパチンコに誘われた 等
  • 「ギャンブルに向かわせたとき、どのような思考や感情があったのか?」
    例:「少しだけなら」「今回だけは大丈夫だと思った」「嫌な気分を忘れたかった」「勝てば問題ないはずだと思った」 等
  • 「他にどんな対処法がそのとき可能だったか?」
    例:誰かに愚痴を聞いてもらうことはできなかったか/その場を離れて運動するなど気分転換できなかったか 等
  • 「次に似た状況が起きそうなとき、自分はどう危険に気づき回避できるか?」
    例:給料日には一定額を家族に預ける/ストレスが溜まったら早めに誰かに相談する/ギャンブルの誘いを受けそうになったら断り文句を予め用意しておく

このような問いを通じて、本人自身に再発の経緯を整理させ、危険因子への気づきを促します。一度の再発経験から学べることは多く、適切に振り返れば次回以降のリスク軽減に繋げることができます。大切なのは、決して本人を責め立てるのではなく、あくまで建設的な検討作業として進めることです。家族も一緒に考え、「では今度こういう状況になったら、家族としてこうサポートしよう」といった対策を話し合うと良いでしょう。

分析に役立つツールの活用

再発の原因分析には、専門機関で提供される「再発防止ワークシート」などのツールを活用するのも一案です。例えば、国立病院機構久里浜医療センターの治療プログラム「STEP-G」では再発のプロセスを可視化するシートが用意されています。また各地の依存症支援施設でも、トリガーや渇望の対処法を書き出すワークシートが使われることがあります。こうした書面に書き出す作業は頭の中を整理し、客観視する助けになります。本人が一人で書き出しにくい場合は家族が問いかけながら一緒に書いても構いません。ポイントは、再発に至るまでの状況・思考・感情・行動を時間軸で振り返り、「どこで止められたか」「次はどうするか」を具体的に洗い出すことです。

例えば、ある再発ケースを振り返ってみると、

  • トリガー: 「ボーナス支給の日、偶然立ち寄ったコンビニで競馬新聞を見かけた」
  • そのときの思考: 「少しだけなら競馬を買ってもバレないかも」
  • そのときの感情: (内心わくわく・ソワソワしている)
  • 行動: 「自宅に帰る前に競馬場に行ってしまった」
  • 結果: 「結局ボーナスを使い果たし、その事実を隠そうと嘘をついた」
  • 次回への対策: 「ボーナス支給日は寄り道せず真っ直ぐ帰宅する。どうしても競馬が頭をよぎったら家族に電話するか、あらかじめ家族にボーナスを預ける」 …etc

このように整理することで、「自分はどんな状況で弱くなるか」「次は何に気をつければ良いか」が見えてきます。また再発には前兆となるサインもあるとされます。具体的には、落ち着きのなさやイライラ日常生活の乱れ(睡眠不足や食欲低下)周囲への嘘や秘密が増えるお金の減りが妙に早くなる等です。家族はこうしたサインにも日頃から注意を払い、早め早めに声掛けや対処をするよう心がけましょう。

再発は「失敗」ではなく「学び」

分析の過程で忘れてはならない心構えがあります。それは、「再発=本人の意思が弱いから起きた失敗」ではなく「回復に必要なことを学ぶための機会」だという視点です。もちろん再発しないに越したことはありませんが、依存症という病気の性質上、再発は回復プロセスの一部として多くの人に起こり得るものです。一度の再発で培ってきた信頼や努力がすべて無駄になるわけではありません。むしろ、そこで得た教訓を次に活かせば、さらに強固な回復基盤を築くことができます。家族も本人も、この視点を共有することが大切です。

本人には「今回何がダメだったかを一緒に考えてみよう。次はもっと良い対処法が取れるはずだよ」と伝え、自己否定や絶望感にとらわれないようサポートしましょう。再発経験者の中には、「あのとき再発したおかげで、自分の問題の根本に気づけた」「次はこうしようという具体策ができた」と語る人もいます。まさに「失敗」ではなく「必要な学習機会」と捉えることで、本人は前向きに立ち直る意欲を取り戻しやすくなるのです。家族もまた、「今回で終わりではなく、ここからまたやり直せる」と自分たちに言い聞かせ、建設的に歩みを進めましょう。

責めずに寄り添うコミュニケーション法

再発後の家族のコミュニケーションの取り方は、本人の回復意欲や家族関係の修復に決定的な影響を与えます。ここでは、再発した本人に対する望ましい接し方と心理的アプローチのポイントを解説します。

批判より共感、そして建設的な対話

再発に直面すると、家族としては「どうして約束を破ったの!?」と責めたい気持ちになるでしょう。しかし前述したように、頭ごなしの批判や非難は本人を追い詰め、状況を悪化させるだけです。本人は既に自責の念や恥ずかしさを感じている場合が多く、さらに責められると自己嫌悪が深まり開き直りや逃避に繋がりかねません。そこで意識したいのが、「責める」のではなく「理解しよう」とする姿勢です。

具体的には、「なぜまた!」ではなく「何があったの?」と質問の仕方を変えてみます。本人の気持ちに寄り添い、「辛かったね」「今回はうまくいかなかったけれど、また一緒に頑張ろう」といった共感や励ましの言葉をかけましょう。コミュニケーションの基本は、落ち着いた口調で、相手の人格を否定しないことです。たとえ行為自体は問題であっても、本人そのものを見捨てたり侮蔑したりするような発言(「もうあなたなんか信用できない」「意気地なし!」等)は厳禁です。「あなたは大切な家族だ」というメッセージは常に維持しつつ、問題となる行動だけを分けて取り上げるよう意識しましょう。

「私は◯◯と感じた」の伝え方

家族が自分の気持ちを伝える際には、「あなたはまた裏切った」「あなたはダメだ」ではなく「私は悲しかった」「私は心配している」という「私(I)メッセージ」で伝えることが有効です。例えば、「今回またお金を使い込んでいて私はとても悲しかった。あなたの身体も心配だし、このままでは将来が不安です」といった言い方です。こうすれば、責められているというより家族が感じている率直な不安や困惑として受け止めやすくなります。相手の人格否定ではなく行動の影響について冷静に伝えることで、本人も防衛的にならずに済みます。心理学的にも、非難より自己開示の形で思いを話す方が相手に響きやすいとされています。

さらに、「私たちはあなたにまた元気になってほしいと思っている」といった期待や信頼の表明も忘れずに。再発直後、本人は「家族を失望させた」「もう見放されたかも」と感じています。そこで家族が失望と同時に期待も伝えることで、本人の中に残る回復への意欲を引き出すことができます。「確かに裏切られてショックだった。でも私はあなたに良くなってほしいし、また信頼を取り戻せると信じている」というニュアンスを伝えられれば理想的です。

責任を本人に取り戻させる

優しさと共感を示す一方で、再発によって生じた問題の責任は本人に取らせることも重要です。ここで言う「責任を取らせる」とは、感情的に咎め立てすることではなく、事後処理や問題解決の主体になってもらうことを指します。ギャンブルによる借金やトラブルを家族が肩代わりして後始末してしまうと、本人は修羅場を経験しないまま問題をやり過ごし、「また周囲が何とかしてくれるかも」と誤解してしまいます。この現象はイネーブリング(enabling)と呼ばれ、善意の手助けがかえって依存行動を可能にしてしまう逆効果を指します。家族はこのイネーブリングに陥らないよう注意が必要です。

具体的には、借金の尻拭いを安易に引き受けないことが挙げられます。多額の借金に家族が驚いて「かわいそうに」と全額返済し、「二度としないでね」と約束させても問題は解決しません。むしろ本人は「やり過ぎたと反省はするが、本質的な対策は取らない」まま、しばらくするとギャンブルを再開できてしまいます。家族は心を鬼にしてでも「自分の起こした問題と向き合わせる」姿勢を持ちましょう。借金であれば、自分で消費者金融や債務整理の専門家(弁護士・司法書士)に相談させる、あるいは家族同席のもとで法的措置(債務整理や自己破産など)を検討するなど、本人主体で解決策を取らせます。消費者庁も「借金の肩代わりは本人の回復の機会を奪う」として、家族が直接お金の問題を引き受けないよう注意喚起しています。どう対応して良いか分からない場合は、法テラス(日本司法支援センター)などの公的機関に「家族として借金問題にどう向き合うべきか」相談してみるのも有効でしょう。

本人に責任を返した後、家族は一致団結して治療につなげるよう働きかけます。例えば、親戚や信頼できる第三者にも協力を仰ぎ、家族全員で「あなたにこのまま破滅してほしくない。治療や自助グループでやり直せるから、一緒に支援するからやってみよう」と強い意志で提案する場を持ちます。本人も自分で解決できず困り果てると、次第に周囲の言葉に耳を傾けるようになります。このタイミングで家族が“同盟軍”となって説得するのです。重要なのは、「もう二度としないと誓え!」などと約束を書かせることではありません。誓約書を書かせても病気自体は治らず、専門的支援なしの借金返済は問題の長期化を招くと指摘されています。そうではなく、「病気の克服には治療や自助グループ参加が必要だ」という点を家族全員で共有し、具体的な回復行動に本人を誘導することが肝心なのです。

ウソや隠し事を許さない環境づくり

コミュニケーションにおいてもう一つ大切なのは、ウソやごまかしを許さない姿勢を示すことです。ただし頭ごなしに「嘘をつくな!」と叱るだけでは不十分で、日頃からオープンに話し合える信頼関係を築くことが前提となります。ギャンブル依存症の家庭では、本人が負い目から嘘を重ね、家族がそれを疑って更に関係が悪化するという悪循環に陥りがちです。これを断ち切るには、家族側も「正直に打ち明けてくれれば一緒に対策を考える」という姿勢を普段から示しておく必要があります。本人が勇気を出して隠し事を打ち明けたとき、頭ごなしに怒鳴ったり責めたりせず、まずは話してくれたことを評価しましょう。そして事実を受け止め、解決策を一緒に練る方向に会話をシフトします。「黙っていられるより打ち明けてもらった方がずっと良い。だからこれからも隠さず話してね」というメッセージを伝えるのです。

もちろん、だからといって再発や借金の事実を容認するわけではありません。嘘をついたり隠したことによって生じた追加的な問題については、先述の通り本人に責任を取らせますし、家族としても毅然とした態度で「隠し事は二度としないでほしい」と伝えます。ただ、その際も感情的な非難ではなく冷静かつ断固とした姿勢で伝達します。例えば「今回隠していたことで私たちはもっと傷ついた。だからこれからはどんな小さなことでも正直に話してほしい。もしまた隠したら、私たちもあなたを全面的には助けられなくなる」というように、事実と感情、今後の方針を整理して伝えると良いでしょう。家族側が嘘に振り回されない強い態度を示すことも、本人の更生意欲を高める一因となります。

家族も専門家の力を借りる

コミュニケーション方法に悩んだときや、家族自身が感情を持て余すときは、専門家の力を借りることも検討しましょう。依存症治療の専門家やカウンセラーは、家族向けに対応方法のアドバイス心理的サポートを行っています。家族が感じる怒りや不安、悲しみをどう伝えれば良いか、一緒に考えてくれるでしょう。また、家族がカウンセリングを受けることで、自分の感情を安全な場で吐き出し整理することができます。専門家の視点から「その対応は適切だった」「ここはこう言ってみては」など助言を受ければ、より自信を持って本人に向き合えるようになります。実際、ギャンブル依存症本人が治療に乗り気でなくても、家族がカウンセリングを受けることで状況が改善するケースもあります。必要に応じて、精神保健福祉センターなど公的機関の家族相談や、家族教室といったプログラムを活用しましょう。

最後に、家族は自分を責めすぎないことも大切です。「自分の育て方が悪かったのか」「もっと早く気づけば」といった罪悪感を覚える親御さんもいます。しかし、繰り返しになりますが依存症は家族の責任ではなく「誰もがなり得る病気」です。家族が罪悪感を抱え込むと適切な対応ができなくなってしまいます。どうしても気持ちの整理がつかない場合は専門家にその思いを吐露し、客観的な視点をもらってください。家族が健全な心でいることが、結果的に一番の本人支援につながるのです。

海外における支援モデルと再発予防プログラムの事例

ギャンブル依存症への対応は世界各国で様々な取り組みがなされています。ここでは、海外の代表的な支援モデルや再発予防プログラムとして、アメリカ発祥の「12ステッププログラム」とイギリスにおける公的医療サービス(NHS)の例を紹介します。

アメリカの自助グループ(12ステッププログラム)

「12ステッププログラム」とは、アルコール依存症の自助グループ(AA:アルコホーリクス・アノニマス)から始まった、依存症克服のための自己改革プログラムです。ギャンブル依存症の分野では、1957年に米国で誕生した自助グループ「ギャンブラーズ・アノニマス(GA)」がこの12ステップを取り入れた支援モデルとして知られます。GAでは、当事者(ギャンブル問題を抱える本人)だけが集まり、定期的なミーティングで体験談を語り合い支え合うことで回復を目指します。具体的な12のステップは、①自分がギャンブルに対して無力であることを認める、②自分より大きな力(仲間や高次の存在)を信頼する、③これまでの過ちをすべて棚卸しして認める、④それを他者に打ち明ける、⑤過去に傷つけた人々に償いをする…など段階的に進んでいく自己改善の指針です。これらを順に実践しながら、ミーティングではお互いの進捗や悩みを共有します。

GAの特徴は、仲間同士の平等な関係と継続的なサポートです。参加者は過去の肩書きや社会的立場を問わず「一人のギャンブル依存症者」として扱われ、匿名性が守られます。先に回復を進めているメンバーは新人のスポンサー(支援役)となり、電話などで日常的に支えます。再発してしまった場合でも、GAの仲間は決して非難せず迎え入れ、再び一緒に回復への道を歩んでくれます。ミーティングでは自分の再発経験を正直に語り、仲間から教訓を得ることもできます。こうした場があることで、「自分だけじゃない」と孤独感が癒やされ、モチベーションを立て直す助けとなるのです。GAに長期にわたり参加し続けることで症状が安定し、健康的な生き方へと変わっていけることが様々な体験談から報告されています。

今日ではGAはアメリカのみならず世界中に広がり、日本国内にも200以上のグループが各地で定例会を開催しています。参加費はなく、意欲さえあれば誰でも参加可能です。再発防止の観点からも、「仲間との定期的なミーティングに参加し続けること」は非常に有効な戦略とされています。また、ギャンブル依存症者本人の自助グループGAに加え、その家族版である「ギャマノン(Gam-Anon)」もアメリカで生まれています。ギャマノンでは家族が集まり、共通の悩みを持つ者同士で支え合いや情報交換を行います。家族が孤立せず健全な対処法を身につけることで、結果的に本人の再発防止にも繋がるという考えに基づいたプログラムです。ギャマノンは日本を含め世界中に広がり、多くの家族が参加しています。

イギリスNHSのギャンブル依存症治療

イギリスでは、公的医療サービスであるNHS(National Health Service)がギャンブル依存症の治療プログラムを提供しています。NHSは全国にギャンブル問題専門のクリニックを設置しており、そこでは精神科医や心理士など専門チームが診療にあたります。この「ギャンブルクリニック」では、認知行動療法(CBT)を始めとする科学的根拠に基づいたカウンセリングや、薬物療法(必要に応じて抗うつ薬等)など包括的な治療が行われます。また特徴的なのは、患者本人だけでなくその家族や友人に対する支援プログラムも用意されている点です。家族もカウンセリングを受けたり、情報提供を受けたりすることで、本人の回復をより良く支えられるようになります。

NHSのギャンブルクリニックは、医師の紹介がなくても自分で予約(自己紹介)して受診することが可能です。費用も基本的に公的医療制度でカバーされます。治療内容は外来によるセラピーが中心ですが、症状が重篤な場合には入院プログラムが用意されている地域もあります。また英国では、NHS以外にも民間や慈善団体による無料相談窓口が充実しています。例えば全国ギャンブル相談ホットライン(National Gambling Helpline)は24時間体制で電話相談を受け付けており、問題を抱える本人だけでなく家族からの相談にも対応しています。他にもGamCareGambleAwareといった非営利団体がオンラインチャットや電話でのカウンセリング、支援グループの運営などを行っています。

さらにイギリスでは再発予防のための具体的なツールも整備されています。例えば「GamStop」というサービスに登録すれば、自分名義では英国のオンライン賭博サイトに一定期間ログインできなくすることができます。また「Gamban」というアプリを端末にインストールすれば、その端末からギャンブルサイトへのアクセスをブロックできます。銀行に依頼して賭博サイトへの送金をブロックしてもらうことも可能です。このように、テクノロジーを活用した再発防止策も国主導で提供されており、家族と本人が一緒に活用することで衝動的な再発を防ぐ効果が期待できます。

以上のように、海外では自助グループによる継続支援モデル(米国型)公的医療による専門治療モデル(英国型)の双方からギャンブル依存症の再発予防が図られています。それぞれアプローチは異なりますが、共通するのは「当事者と家族への切れ目ない支援」と「再発を責めるのではなく受け止めて支える姿勢」です。日本においても、これら海外モデルの知見を取り入れながら支援体制が整いつつあります。

日本国内における再発時に相談できる窓口や制度

最後に、日本国内でギャンブル依存症の再発に直面した際、家族が頼ることのできる相談窓口や支援制度についてまとめます。孤軍奮闘せず、ぜひ周囲のリソースを活用してください。

  • 精神保健福祉センター(各都道府県・政令市) … 各都道府県や大都市には、公的な精神保健福祉センターがあります。ここではギャンブル依存症を含む様々な依存問題について、家族だけでも相談員(精神保健福祉士や保健師等)に無料で相談できます。再発状況の聞き取りや今後の対応策の助言、必要に応じて適切な医療機関や自助グループの紹介を行ってくれます。電話相談や面接相談(予約制の場合あり)が可能で、プライバシーは厳守されます。「本人が治療を嫌がっているがどうしたら…」といった家族の悩みにも専門的視点からアドバイスを受けられる心強い窓口です。
  • 依存症専門医療機関 … 日本には厚生労働省が指定する「依存症専門医療機関」が各地域に存在します。これはギャンブル依存症やアルコール依存症などを専門的に治療できる医療機関で、専門研修を受けた医師やカウンセラーが在籍しています。再発した本人が受診に同意するなら、こうした専門外来に早めに繋げましょう。もし本人が拒否しても、家族だけで先に受診し相談することも可能です。「家族の相談外来」を設けている病院もあります。専門医療機関では医学的観点から再発の評価や治療方針の見直しを行い、必要なら入院治療や薬物療法も検討されます。各都道府県の精神保健福祉センターや厚労省の依存症対策サイトで、最寄りの専門医療機関情報を入手できます。
  • 家族の自助グループ(家族会)ギャマノン(ギャンブル依存症者の家族と友人の自助グループ)をはじめ、各地域で家族向けの自助ミーティングが開催されています。ギャマノンでは家族が集まり、体験談を語り合ったり、依存症についての正しい知識を学んだりします。再発した家族を持つメンバーも多く、先輩家族の体験から具体的な対処法のヒントを得られるでしょう。「怒りでいっぱいだったけどこう乗り越えた」「経済的な管理はこうしている」といった生の声は、大きな支えになります。また家族会では家族自身の心のケアも重視されます。同じ悩みを持つ人同士だからこそ分かち合える苦しみがあり、互いに共感し励まし合う場は孤独感を癒やしてくれます。ギャマノンは日本国内に100か所以上の会場があり、公式サイトや精神保健福祉センターで情報を得られます。参加費は基本無料・匿名で参加できますので、気軽に扉を叩いてみてください。
  • ギャンブラーズ・アノニマス(GA) … 本人向けの自助グループであるGAにも、家族が付き添って参加できるオープンミーティングを開催しているグループがあります。家族会とは別に、「本人たちがどのように再発と向き合っているか」を知る機会として、GAの場に家族が参加することにも意義があります。GA日本中央事務局によれば、全国に約200のグループが存在し、定期的にミーティングが行われています。再発直後の本人が尻込みしている場合、家族が一緒に連れていくことで参加のハードルを下げることも可能です。「同じ問題を持つ仲間」に囲まれる経験は、本人にとって何よりの薬になりますし、家族もそこから学べることが多いでしょう。
  • 行政の相談窓口・支援制度 … 各自治体でも依存症相談窓口を設置し、家族からの相談に応じています。例えば保健所では、依存症に詳しい保健師や相談員が常駐し、電話や来所での相談を受け付けています。また一部自治体では家族教室(家族向け教育プログラム)を開催し、依存症への正しい対応方法を学べる場を提供しています。さらに、厚生労働省は依存症対策の一環で「依存症ホットライン」やオンライン相談も実施しています。こうした公的サービスは基本無料で利用できます。加えて、近年はギャンブル等依存症対策基本法の施行により、国や自治体の支援体制が強化されています。例えば毎年5月14日からの一週間は「依存症啓発週間」とされ、各地で家族向けセミナーや相談会が開かれています。「ひとりで悩まず、家族で悩まず、まず!相談機関へ」というスローガンのもと、依存症対策推進本部も広報活動を行っています。こうした機会に参加し、最新の情報や支援策をキャッチアップするのも良いでしょう。
  • その他の支援団体 … 日本には民間の支援団体も複数あります。例えば「ギャンブル依存症問題を考える会」(公益社団法人)は、依存症当事者や家族への啓発や自助グループ支援を行っています。こちらでは家族向けの電話相談や講演会なども開催しています。また「全国ギャンブル依存症家族の会」(NPO法人)は各地の家族自助グループのネットワークで、家族の体験談集の発行や全国大会の開催など、家族支援活動を活発に行っています。加えてリカバリーサポートネットワーク(RSN)のように、ギャンブル依存症からの回復者が中心となって電話相談や回復プログラムを提供する団体もあります。RSNの相談電話では家族からの相談にも応じており、再発対応のアドバイスをもらえるでしょう。必要に応じて、これら民間団体のリソースも活用してください。

おわりに:再発を乗り越えるために

ギャンブル依存症の再発に直面したとき、家族は大きな失望と怒り、そして「もうどうしようもないのでは」といった不安に苛まれるかもしれません。しかし、本稿で述べてきたように再発は決して珍しいことではなく、適切に対処すれば回復軌道に戻ることが可能です。再発そのものを恐れすぎず、「起きてしまった以上、ここから何を学び何を変えられるか」にフォーカスしましょう。その際、家族の冷静で一貫した対応と支援が何よりも力になります。

再発は家族にとっても試練ですが、この経験を通じて家族側も対応力を高め、支援者として成長する機会と捉えることができます。辛いときは遠慮なく周囲の支援制度に頼り、決してひとりで抱え込まないでください。そして何より、本人と家族の「もう一度やり直そう」という意志がある限り、回復への道は必ず開けます。ギャンブル依存症は専門家の助けを借りれば必ず良くなる病気です。たとえ途中でつまずいても、その度に家族で手を取り合い立ち上がれば、きっと明るい未来が待っています。

辛抱強く支え続ける家族の愛情は、本人にとって大きな拠り所です。そして家族自身もまた、回復への旅路の「仲間」です。再発という壁を乗り越えた先に、以前にも増して強い信頼関係と安定した生活が築けることを信じて、できるところから一歩ずつ進んでいきましょう。再発は終わりではなく、新たな再出発の始まりなのです。


参考文献

  1. もしもスリップ(再飲酒、再使用、再ギャンブル)してしまったら – NCASAジャパン (依存症からの回復支援に関する解説記事)
  2. ギャンブル依存症の回復 – 外来治療と家族相談、回復施設|大石クリニック – 依存症治療専門医療機関によるコラム(神奈川県・大石クリニック)
  3. 田辺等先生に「ギャンブル依存症」を訊く – 日本精神神経学会 一般向けサイト(依存症治療の専門医によるインタビュー記事, 2016/2024)
  4. ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ – 消費者庁 公式サイト(ギャンブル等依存症対策に関する解説)
  5. Gambling Addiction Relapse: Strategies for Recovery – Atlantic Behavioral Health(米国の依存症治療機関による解説記事, 2024)
  6. Help for problems with gambling – NHS – 英国国民保健サービスNHSによるギャンブル問題支援情報
  7. Compulsive gambling – Diagnosis & treatment – Mayo Clinic – 米国メイヨークリニック(ギャンブル依存症の治療と家族対応に関する解説)
  8. Gambling – advice for family and friends | Better Health Channel – オーストラリア・ビクトリア州政府 保健局(ギャンブル問題の家族・友人向けアドバイス)
  9. もしもスリップを通り越して依存症が再発してしまった場合 – NCASAジャパン (再発時の対処に関する補足説明)
  10. Gambling Addiction Relapse: FAQ – Common triggers for a gambling relapse – Atlantic Behavioral Health(再発の引き金に関するQ&A)
  11. Gambling – providing support | Better Health Channel – オーストラリア ビクトリア州 政府サイト(問題ギャンブラーへのサポート方法)
  12. 家族のためのガイド:ギャンブル依存症からの回復 – 北海道 依存症問題啓発資料(家族の対応ポイントを解説)
  13. Recovery and support programmes – Gamblers Anonymous & Gam-Anon – Gamblers Anonymous UK(GAとギャマノンの活動紹介。日本におけるグループ数など)
  14. 依存症相談窓口一覧(全国精神保健福祉センター等) – 全国精神保健福祉センター長会(各地の相談窓口リスト)
  15. ギャンブル依存症問題を考える会 公式サイト – 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(家族向け電話相談や自助グループ情報)
  16. 全国ギャンブル依存症家族の会 公式サイト – NPO法人全国ギャンブル依存症家族の会(家族の体験談や各地家族会の案内)
  17. リカバリーサポート・ネットワーク(RSN) – 特定非営利活動法人RSN(ギャンブル依存症専門の電話相談・回復支援を提供)
  18. 依存症の正しい知識と対応(啓発用資料) – 厚生労働省作成パンフレット(依存症全般の基礎知識と相談先案内)
  19. ギャンブル等依存症対策 推進基本計画 – 内閣府 ギャンブル等依存症対策推進本部(家族支援施策や基本方針について記載)
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