ギャンブル依存症(※医学的には「ギャンブル障害」)は、本人だけでなく家族全体を巻き込む問題です。特に親がギャンブル依存症に陥った場合、その子どもたちへの影響は想像以上に深刻です 。残念ながらこれまで長らく、親の依存症による子どもの苦しみに対する社会的支援は十分とは言えず、子どもが問題行動を起こして初めて「ケース」として扱われるような状況も少なくありませんでした ¹。ここでは、親がギャンブル依存症になった家庭で起こりがちな変化(経済的不安定や親の情緒不安定など)と、その中で子どもが受けるストレス・トラウマについて解説します。そして乳幼児・小学生・中高生という年齢層別に、子どもが抱えやすい心の傷と適切なケア方法を詳しく述べます。さらに、親や家族が取るべき支援策として、「子どもへの接し方」「年齢に応じた説明の工夫」「学校や支援機関との連携」「利用できる支援制度」「回復後の信頼再構築」等のポイントについて深く掘り下げます。ギャンブル依存症と闘う親御さん自身が、「子どものために何ができるか」を考える一助になれば幸いです。専門用語もできるだけかみ砕き、読者であるあなたの不安や葛藤に寄り添いながら説明していきます。
親のギャンブル依存症が子どもに及ぼす影響
親がギャンブル依存症になると、家庭環境は大きく乱れがちです。その乱れは経済面・情緒面・生活習慣など多岐にわたり、子どもの心身に深刻な影響を及ぼします。まずは、ギャンブル依存症の親を持つ子どもが直面しやすい家庭内の変化と心理的影響について見ていきましょう。
家庭内で起こりがちな変化
- 経済的な不安定さと生活の混乱: ギャンブルにのめり込んだ親は、家計のお金や貯金にまで手をつけてしまうことがあります。生活費や教育費がギャンブルにつぎ込まれ、家賃や光熱費が払えなくなったり、多額の借金を背負うケースも珍しくありません ²。その結果、突然の引っ越しや夜逃げ同然の生活変更を強いられたり、借金取りからの督促や差し押さえといった事態に子どもも巻き込まれ、日常生活が大きく乱れます。家庭の経済的基盤が不安定になることで、子どもは常に「明日ちゃんとご飯が食べられるのだろうか」「学校の費用は大丈夫だろうか」といった不安を抱えがちです。
- 親の情緒不安定と家庭内の緊張: ギャンブル依存症は脳の報酬系の異常によって「やめたくてもやめられない」状態になる疾患です。そのため親御さん本人も自己嫌悪や焦燥感に陥りやすく、感情の浮き沈みが激しくなりがちです。勝ったときには一時的に機嫌が良くても、負けが込むと苛立ちや落ち込みが顕著になります。家庭では怒りっぽくなったり些細なことで怒鳴ったり、逆に塞ぎ込んで何日も口をきかないこともあるでしょう。「親の機嫌が読めない」緊張感の中で、子どもは顔色を伺いながら生活するようになります。「今日は怒られないだろうか」「また悲しませてしまうのでは」と常にビクビクして過ごし、心休まる時間が減ってしまいます。
- 親子のコミュニケーション断絶: ギャンブル依存症の影響で親が家にあまり居付かなくなったり、家にいても心ここにあらずで子どもと関わらなくなることがあります。また、負い目から子どもを避けたり嘘を重ねて接することで信頼関係が崩壊する恐れもあります。嘘を隠すためさらに嘘をつく悪循環に陥り、子どもは「親は自分に隠し事ばかりしている」「どうせ約束も守ってくれない」と感じてしまいます ²。コミュニケーションが断たれることで、子どもは悩みを親に話せず孤立感を深めるかもしれません。
- 家庭内不和・暴力やネグレクト(育児放棄)の発生: ギャンブル依存症は家族関係の悪化も招きます。夫婦間の口論や衝突が増え、最悪の場合DV(家庭内暴力)に発展するケースもあります。例えば、ギャンブルに使うお金を巡って夫婦喧嘩が絶えない、興奮した親が物に当たったり子どもに手を上げてしまう、といった危険な状況です。また、親がギャンブル最優先になってしまうと、子どもの食事や身の回りの世話がおろそかになるネグレクト(放任・無視)状態に陥ることもあります 。実際、パチンコに夢中になった親が幼い子どもを車内に放置して死亡させてしまう悲劇も報道されています。それほどまでに依存症は本人の判断力を奪い、結果として子どもの生命や安全を脅かすことがあるのです。家庭がこのように荒れてしまうと、子どもは「家は安心できない危険な場所だ」という認識を持ち、心に深い傷を負います。
- 家庭崩壊(離婚や別居): ギャンブル依存症がもとで夫婦関係が破綻し、離婚に至る家庭も少なくありません。実際に「ギャンブル依存症は家族にも大きな影響を与える問題。ギャンブル依存症の家庭では子どもの不登校が多いですし、講演で『学生のうちにギャンブルにのめり込むと人生が台無しになるよ』と伝えると『もっと早く知っていたら親は離婚せずに済んだかもしれない』と語る子もいる」という指摘があります ³。親の離婚や別居で生活環境が激変すると、子どもは転校や引っ越し、新しい家庭環境への適応など大きな負担を強いられます。また、「自分がしっかりしていれば家庭は壊れなかったのではないか」と自責の念を抱く子もおり、心の傷は深刻です。
以上のように、親のギャンブル依存によって家庭内には経済的混乱、感情的混乱、信頼関係の崩壊、暴力・ネグレクト、果ては家庭崩壊といった変化が生じがちです。当然ながら、その渦中にいる子どもたちは日々大きなストレスにさらされます。
子どもの心理・行動への影響
家庭環境の乱れは、子どもの心に様々な形で影を落とします。依存症の親を持つ子どもたちには以下のような心理的影響や行動上の問題が生じやすいと報告されています。
- 不安と恐怖の常態化: 毎日が不安と緊張の連続となり、子どもは常に怯えたような心理状態に陥ります。親の機嫌や家計の行方に対する心配が尽きず、「明日はどうなってしまうのだろう」という漠然とした恐怖を抱え込みます。この慢性的ストレスは子どもの自律神経を乱し、睡眠障害や食欲不振、腹痛・頭痛など心身の不調となって現れることもあります。また夜驚症(夜中に叫ぶ・泣く)や悪夢を見る頻度が高まる子もいます。幼い子ほど言葉で不安を表現できないため、泣き叫んだり癇癪を起こす形で表出する場合もあります。
- 自己肯定感の低下と罪悪感: 子どもは発達段階上、「親に起こる悪い出来事は自分のせいではないか」と考えてしまう傾向があります。ギャンブル依存の親を持つ子どもも例外ではなく、「自分がいい子じゃないからお父さん(お母さん)はギャンブルをやめられないのかも」「僕さえいなければ家族はもっと楽になるのでは?」と罪悪感を抱くことがあります。実際には親がギャンブルをやめられないのは子どもの責任では決してありません ⁴。しかし幼い心にはそれが理解しきれず、自分を責めて自己評価を下げてしまうのです。このような自己肯定感の低下は、将来的にうつ症状や対人関係の萎縮などにつながる恐れがあります。
- 悲嘆・抑うつ傾向: 親の依存症問題に子どもが巻き込まれると、日々の生活から楽しさや希望が失われてしまうことがあります。「どうせうちなんかだめだ」「将来明るいことなんて何もない」といった絶望感にとらわれ、年齢に似合わず沈んだ表情で過ごす子もいます。ある書籍では「親が依存症である場合、その子どもたちの心にも暗い影を落とし、生活を翻弄され、自分の人生をも悲観してしまっている場合もある」と指摘されています ⁵。子どもがこのような抑うつ状態に陥ると、笑顔や意欲が消え失せ、学校の活動や友達付き合いにも興味を示さなくなるかもしれません。最悪の場合、「自分なんて生まれてこなければよかった」などと口にしたり、自己否定的・自傷的な行動をとる危険性もあります。
- 問題行動(攻撃性・不登校など)の発現: ストレスに押し潰されそうな心を守るため、子どもによっては問題行動という形でシグナルを発することがあります。例えば、小さな子がかんしゃくを起こし物を壊す、年長児や思春期の子が乱暴な言動をしたり反社会的行動に走るケースです。学校でいじめや暴力事件を起こしたり、不登校になる子どもも少なくありません ³。背景には、家庭で誰にもケアされず傷ついた心がある場合が多いのです。また逆に、親を困らせまいとして自分の感情を押し殺し、極端に良い子を演じる子どももいます。いずれにせよ、内なる悲しみや怒りが適切に表現・解消されないままだと、子どもの健全な発達に大きな支障が出ます。
- 対人関係の歪み(人を信頼できない・引きこもり傾向): 親との信頼関係が崩れてしまった子どもは、他者全般への信頼感も揺らぎがちです。「どうせ人は自分を裏切る」「大人なんて信用できない」という思いから心を閉ざし、友人や教師にも悩みを打ち明けられなくなります。その結果、社会的に孤立していくこともあります。実際、依存症家庭の子どもには引きこもりがちになったり、人付き合いを避ける傾向が指摘されています。また、親から充分な愛情やケアを受けられなかった子は健全な愛着形成が阻害され、将来の恋愛や結婚など親密な人間関係に困難を抱えるリスクもあります。
以上のように、親のギャンブル依存症は子どもの心身に多大な悪影響を及ぼします。その深刻さは「極めて深刻」だが「ほとんど対策がなされてこなかった」とまで言われるほどであり ¹、子どもが「問題児」とレッテルを貼られてようやく表面化するケースも少なくありません¹。子どもの側からすれば、自分ではどうにもできない家庭問題に翻弄され、「助けてほしい」と叫びたくても叫べない日々を送っているのです 。
しかしながら、このような環境で育った子どもすべてが将来不幸になるわけではありません。適切なケアと支えがあれば、子どもたちは困難を乗り越え健やかな成長軌道を取り戻すことができます。そのためにまず大切なのは、親御さん自身が子どもの置かれた状況と心の傷に気づき、理解することです。その一歩として、次章から年齢段階ごとに子どもが抱えやすいストレス反応とケアのポイントを具体的に見ていきましょう。
年齢別:子どもが抱えやすいストレスやトラウマと心のケア
子どもの心の受け止め方や支援のアプローチは、年齢によって異なります。乳幼児期・学童期(小学生)・思春期(中高生)それぞれの発達段階に応じて、感じやすいストレスやトラウマ反応、そして有効なケアの方法を解説します。親御さんがご自分の子どもの年齢に合わせた対応策を知ることで、より適切に子どもの心を守りサポートできるでしょう。
乳幼児(乳児~就学前)の場合
特徴: 乳幼児期(おおむね0歳~5歳くらいまで)の子どもは、言葉や論理で状況を理解することができません。しかし周囲の雰囲気や養育者の感情を敏感に感じ取る能力があります。親のギャンブル依存による家庭の緊張や不安は、言葉がわからない赤ちゃんや幼児にも伝わり、情緒に影響を与えます。また、この時期の子どもにとって親(主な養育者)は生きる上での安全基地です。親が安定していないと、子どもの基本的安心感(アタッチメント)が揺らぎ、心の発達に影響が出る恐れがあります。
子どもが抱えやすいストレス反応: 親の不安定さに伴い、乳幼児は次のような反応を示すことがあります。
- 情緒不安定になる: いつもニコニコしていた赤ちゃんが急に泣きやすくなった、幼児が夜泣きや癇癪(かんしゃく)を頻繁に起こすようになった、といった変化が見られることがあります。親がピリピリしていると、子どもも安心できず情緒が不安定になるのです。
- 分離不安の悪化: 普段以上に親から離れまいと泣き叫ぶ、保育園・幼稚園の送り迎え時に激しく抵抗する、といった分離不安の強まりも見られます。親が家を空ける(ギャンブルに出かける)ことが多かったり、在宅中でも子どもに十分構ってあげられない状態だと、子どもは「置いていかれるのでは」という不安から離れられなくなります。
- 発達の後退や身体症状: ストレスが大きい環境では、乳幼児が一時的に発達の後戻りを示すことがあります。例えば、トイレトレーニングが完了していたのにおねしょが再発する、ひとりで眠れなくなる、指しゃぶりが復活する、といった退行現象です。また、夜驚症のように夜間に激しく泣いたり、食が細くなる・吐き戻すなど身体症状で訴えるケースもあります。
心のケア方法: 乳幼児の場合、まず何より身体的・環境的な安全と安定を確保することが重要です。具体的には以下のような対処が効果的です。
- 生活リズムと安心感の確保: 毎日の食事・睡眠・入浴といった基本的な生活リズムをできるだけ崩さないようにしましょう。たとえ親御さんが辛くても、できる限り決まった時間に子どもに食事を与え、寝かしつけ、スキンシップ(抱っこや添い寝)を行うよう努めます。規則正しい生活リズムは幼い子に安心感を与え、不安を和らげます。
- 安全で静かな環境づくり: 家庭内で激しい口論や暴力が起きている場合、乳幼児はそれ自体が強いトラウマになります ⁶。子どもの前では夫婦喧嘩をしない、怒りにまかせて物を壊したりしないように気をつけましょう。どうしても親同士で話し合わねばならない場合は、子どもが寝ている間や別室で行うなど工夫してください。また可能ならば子どもを安心して過ごさせられる環境を確保します。例えば、一時的に祖父母や信頼できる親戚に預ける、地域の子育て支援施設や一時保育を利用するなどです。親御さんがギャンブル治療に専念している間、子どもが安全にケアされている状態を作ることも大切です。
- スキンシップと言葉かけ: まだ言葉の十分でない乳幼児には、スキンシップが不安軽減に絶大な効果を持ちます。抱きしめる、膝に乗せて絵本を読む、背中をさすってあげる――そうした温かな肌の触れ合いは「愛されている、大丈夫だ」というメッセージとなり、子どもの自己安心力を育みます。同時に、優しく語りかけることも忘れないでください。「大好きだよ」「○○ちゃんがいてくれて幸せだよ」といったポジティブな言葉は、たとえ幼い子でも感じ取るものです。親子の愛着関係を守ることが、この時期の最重要課題です。
- 専門家への相談: 乳幼児が極端な不安症状や発達退行を示す場合、小児科医や発達専門の相談機関に早めに相談しましょう。専門家は子どもの心身の状態を評価し、必要に応じて発達支援や心理療法(プレイセラピーなど)を提案してくれます。親御さん一人で抱え込まず、「子どもの様子がおかしい」と感じたら地域の保健センターや児童相談所、子育て支援センターなどに連絡してみてください。適切なアドバイスを得ることで、子どものストレスを和らげるヒントが見つかることもあります。
乳幼児期は子どもの人格や脳の基盤が形成される大切な時期です。この時期に受けた愛着関係の傷は、その後の人生に長く影響する可能性があります。一方で、乳幼児は可塑性(環境への適応力)が高い時期でもあります。親御さんや周囲の大人の手で安心できる養育環境を整え直せば、子どもは驚くほど速やかに安定を取り戻すこともあります。まずは「子どもにとって安心・安全で、無理をせず子どもらしくいられる環境」を大人の責任で確保すること ⁶──ここから全てが始まります。
小学生(児童期)の場合
特徴: 小学生くらいの年齢(おおむね6~12歳)は、社会性や自我が発達し始める時期です。学校生活を通じて「自分はどう見られているか」を気にしたり、物事の道理を考える力も徐々についてきます。一方で、まだまだ発達途上の子どもであり、家庭で起きている事態を客観的に理解するには限界があります。親のギャンブル依存による異変を敏感に察知しつつも、それを正しく意味づけできず混乱し、「自分のせいかもしれない」「どうにかしなくては」と悩む子が多い年代です。また友人関係や学校での立場を気にして、家庭の問題を隠そうとする傾向も見られます。
子どもが抱えやすいストレス反応: 小学生の子どもには以下のような反応が現れがちです。
- 過度の責任感・親代わり: 小学生になると、家族の中で自分の役割を意識し始めます。長子であれば特に、幼いきょうだいの世話を買って出たり、家事を手伝う子もいるでしょう。本来は称賛すべき良い行いですが、依存症家庭の子どもの場合、それが過剰な肩代わりになっていることがあります。例えば、父親がギャンブル依存の場合、小学生の長男が「お母さんを助けなきゃ」と必死に振る舞い、大人顔負けの責任を背負ってしまうといったケースです ⁷。その子自身の遊びや学びの時間が奪われ、「小さな親」のようになってしまうことは心の健全な発達上、望ましいことではありません。
- 学校生活への影響(不登校・成績低下など): 家庭の問題が原因で学校に適応できなくなる子もいます。不安やストレスから授業に集中できず成績が下がったり、宿題に手が付かない、朝起きられないといった症状が出て不登校になるケースもあります ³。また、家で十分な支援や見守りを得られないために、小さな挫折で心が折れやすくなり「どうせ僕なんか」と投げやりになる子もいます。逆に、「家庭に居場所がないから学校では完璧でいよう」と無理をして優等生を演じ、心身に負荷をかける子もいるでしょう。
- 友人関係の問題・孤立: 周囲の友達はまだ家庭の事情に詳しくないとはいえ、小学生も高学年になるにつれ感づくことがあります。「〇〇ちゃんのお父さん、借金取りが家に来て騒いでたらしい」「△△くんのお母さん、パチンコ屋で見たよ」等、うわさ好きな子が言いふらすこともありえます。それを恐れて、当の子どもは友達を家に呼べなくなったり、深い付き合いを避けるようになるかもしれません。結果として孤立感が強まり、学校でも居心地の悪さを感じるようになります。一方で、同級生からからかわれたりいじめの標的になる危険も否定できません。家庭環境のことを揶揄われた子どもは深く傷つき、自己嫌悪や怒りからトラブルを起こす場合もあります。
- 感情表現のゆがみ: この年代の子は、本来であれば様々な感情を学びつつ上手に表現する力を育む時期です。しかし家庭が不安定だと、安全に感情を表す機会が奪われます。その結果、怒りっぽく攻撃的になる子(ちょっと注意されただけで物を投げる等)や、逆に感情を押し殺し過ぎて無表情・無反応になる子もいます。「本当は寂しいし甘えたいのに、それを出せない」もどかしさから問題行動に走るケースは珍しくありません。
心のケア方法: 小学生の子どもには、状況をある程度説明し対話できるだけの理解力があります。一方で、まだまだ子どもらしい柔軟さ・回復力も持ち合わせています。この時期のケアでは安心感の確保と正しい理解の助け、そして自己表現の支援が重要になります。
- 事実を子どもに伝える: 子どもが家庭の異変に気づき始めたら、できる限り早めに事実を伝えることが大切です。ただし内容は子どもの年齢に合わせ、専門用語は避けて平易な言葉で説明します。例えば、「お父さん(お母さん)はギャンブルがやめられなくなる病気になってしまったんだ。でもこの病気はちゃんと治せるものなんだよ」などと伝えてください ⁶。ポイントは、「あなた(子ども)のせいではない」ことをはっきり伝えることです ⁴。「パパ(ママ)がイライラして怒りやすいのは〇〇ちゃんが悪い子だからじゃない。病気のせいで心に余裕がなくなっているんだ」といった言葉掛けで、子どもの誤解や罪悪感を取り除きます。また「必ず良くなるように大人たちも頑張っている」と希望を持てる一言を伝えることも忘れないでください。「病気は治せるもの」「専門の先生(お医者さん)に診てもらっているから良くなるよ」などの言葉は、子どもに安心感と希望を与えます。
- 子どもの気持ちを聞く: 小学生くらいになると、自分の感情をある程度言語化できます。だからこそ、子どもの本音を聞いてあげる場を作ることが大事です。親としては耳の痛い言葉が出てくるかもしれません。例えば「どうして約束守ってくれないの?」「恥ずかしいよ」「もう信用できない」など厳しい言葉をぶつけられる可能性もあります。しかし、それは子どもが抱え込んでいる本当の気持ちです。頭ごなしに叱ったり否定したりせず、最後までじっくり聞いて受け止めましょう。「そんなふうに感じていたんだね」「辛かったね」と共感し、「言ってくれてありがとう」と伝えるだけでも子どもの心は軽くなります。親に遠慮して本音を隠している子には、「どんな気持ちでも話していいんだよ」と繰り返し安心させてください。親に言えない場合は、信頼できる第三者(親戚や学校の先生、スクールカウンセラー等)に話すよう促すのも有効です ⁴。
- 日常生活の安定化: 乳幼児の場合と同様、日々の生活リズムと環境の安定は基本です。朝は決まった時間に起こし、朝食をとり、できるだけ学校に送り出すように努めましょう。難しい場合はスクールカウンセラーや担任と連絡を取り合い、登校しやすい環境作りを一緒に検討します。不登校気味であれば別室登校や午後からの部分登校など、学校側と相談して子どものペースに合わせた登校方法を探ることもできます。子どもが「自分は見捨てられていない」「ちゃんと気にかけてもらえている」と感じることが何より大切です。
- 楽しい経験と思い出を作る: 家庭が暗い雰囲気に包まれると、子どもは笑顔を失ってしまいます。意識的に楽しい時間を作りましょう。お金をかける必要はありません。一緒に料理をしてみる、近所の公園でピクニックをする、好きなボードゲームで遊ぶ、など親子で笑顔になれるひとときを演出します。そうしたポジティブな体験は、子どもの「心の栄養」となりストレス耐性を高めます。また、「今は大変だけど、世の中には楽しいこともちゃんとある」という希望を感じさせてくれます。
- 学校や専門機関との連携: 学齢期の子どもの場合、学校との連携は欠かせません。可能であれば担任の先生やスクールカウンセラーに家庭の状況をそれとなく伝えておきましょう。「実は今、父(母)が病気治療中で…」といった形で説明し、子どもが学校で何か不調を見せた際には柔軟に対応してもらえるよう頼んでおくのです。学校側も事情を知っていれば、子どもの変化にいち早く気づきフォローしやすくなります 。また、自治体の児童相談所や子ども家庭支援センターなどに相談し、必要に応じてカウンセリングを受けることも検討してください。児童期の子ども向けには遊戯療法(プレイセラピー)や芸術療法など、言葉以外のアプローチで心を癒す方法もあります。専門家の助けを借りることは決して恥ずかしいことではなく、子どもの明日を守る賢明な選択です。
小学生の子どもは、親の支え次第で大きく立ち直る力を持っています。同時に、この時期に適切な対処をしないと、心の傷が中高生期以降に深刻な問題として現れる可能性もあります。親御さん自身もしんどい状況とは思いますが、「子どもの気持ちに寄り添い、安心と理解を与える」ことを最優先に心がけてください。その積み重ねが、子どもの健全な発達を取り戻す土台となります。
中高生(思春期)の場合
特徴: 中学生~高校生の思春期の子どもは、心身ともに大人へと移行する時期です。抽象的な概念も理解でき、世の中の出来事をかなり客観的に捉えられるようになります。親の問題についても、小さい頃より現実的・批判的に受け止め、「どうして親はやめられないんだ」「うちの家庭は普通じゃない」と鋭く認識するでしょう。思春期は親離れの時期でもあるため、親に対する反発心や嫌悪感が強まることもあります。ギャンブル依存症の親に対しては、幼い頃感じていた心配や不安が怒りや軽蔑に形を変えるケースも多いでしょう。一方で、まだ経済的・法律的には親に依存している身でもあり、「早く自立したい」「でもできない」という葛藤から強いストレスを抱えやすい時期でもあります。
子どもが抱えやすいストレス反応: 思春期の子どもには以下のような影響が現れることがあります。
- 激しい怒りと反抗: 思春期の子どもは正義感や理想が高まる時期です。不条理や矛盾に対して強い怒りを覚えることがあります。ギャンブル依存の親に対しても、「家族を困らせている」「なんて愚かなことを」と憤慨し、露骨に反抗する態度を取るかもしれません。暴言を吐いたり家庭内暴力に及ぶケースもあります。特に父親が依存症で母親や子どもが被害を被っているような場合、息子が父親に対し怒りを爆発させる…という状況も起こりえます 。このような親子間の衝突は双方にとって不幸ですが、背景には子どもの「どうしてやめてくれないんだ!」という悲痛な叫びがあることを忘れてはいけません。
- 軽蔑と拒絶、心のシャットアウト: 怒りを通り越して、親への諦めや軽蔑の感情を抱く子もいます。「もうこの親には何を言っても無駄だ」「恥ずかしくて友達にも紹介できない」と考え、親子関係を断とうとするのです。最低限の会話しかしなくなったり、必要以上に家に寄り付かなくなる(友人の家や外で時間を潰す)といった行動に現れるでしょう。心を閉ざした子どもは内面に深い孤独を抱えていますが、プライドや反抗心からそれを親に見せることはありません。「勝手にしろ」と突き放した態度の裏で、実は大きく傷ついている可能性があります。
- 不良行為・依存行動への走行: 思春期はリスク行動に手を染めやすい時期でもあります。家庭が崩壊状態にある子どもほど、その傾向が強まる恐れがあります。具体的には飲酒・喫煙、さらには薬物乱用やギャンブルなど、親と同じような依存行動に自ら陥ってしまうケースです。「親があんなだから自分もどうでもいいや」と自暴自棄になる、自分の寂しさを紛らわすため刺激を求める、といった心理から手を出してしまうことがあります。また、家に居場所がないため夜間徘徊や非行グループとの交際に陥る子もいます。実際、親が依存症の場合その子どもも依存症になるリスクは有意に高いことがわかっています ⁶。研究によれば親のどちらかがギャンブル依存症だと、子どもがギャンブル依存症を発症するリスクは親に問題がない場合の3.3倍にもなるという報告もあります ⁶。この数字は思春期に限った話ではありませんが、少なくともこの時期に悪影響を受けやすいことは確かでしょう。また、親のギャンブルに幼少期から晒されていると「賭け事は身近で当たり前の娯楽だ」という誤った認識を持ち、成長後にのめり込みやすくなるとも指摘されています ⁶。親として胸が痛む事実ですが、逆に言えばこの時期の子どもへの働きかけ次第で負の連鎖を断ち切れるとも言えます。
- 将来への不安と諦念: 高校生にもなると、自分の将来像を描き始める時期ですが、家庭の混乱がそれを大きく妨げます。「大学に行きたいけど、このままじゃ学費も無理かも」「就職して早く家を出たい」といった現実的な不安を抱える一方、「自分も親みたいになってしまうのでは…」という遺伝や環境に対する恐れを感じる子もいます。「親がこうだから自分も幸せな家庭は築けないかもしれない」など、将来に悲観的になってしまうケースもあります。本来なら可能性に満ち溢れた若者が、家庭の事情ゆえに夢や挑戦を諦めてしまうとしたら、極めて残念で避けたい事態です。
心のケア方法: 思春期の子どもへの対応は、一筋縄ではいかないかもしれません。幼い頃とは違い、子ども側にもある程度確固とした意志や考えがあります。無理に干渉すればかえって逆効果になることもあるでしょう。大切なのは、思春期の子どもを一個の人格として尊重しつつ、本質的にはまだ保護と支えを必要とする存在であることを忘れないことです。以下のポイントに留意して関わりましょう。
- 誠実な対話と謝罪: 中高生には曖昧な説明やごまかしは通用しません。親がギャンブル依存症である事実、そしてそれによって子どもに辛い思いをさせてきたことを、親の方から正面から認めて話すことが信頼回復の第一歩です。「今まで本当に心配かけてきたね、ごめんね。お父さん(お母さん)は病気の治療を受けて必ず治すつもりだ」──勇気のいる告白かもしれませんが、子どもは親の本気の言葉を聞けば心動かされるものです。もちろん最初は反発するかもしれません。「今さら何を」「謝れば済むと思うな」と言われる可能性もあります。それでも誠意を持って謝罪し、自分の非を認める姿を見せることが重要です。子どもは表向き冷たくしていても、内心では親の本音を聞けたことで安心したり、わだかまりが解けるきっかけを得ているかもしれません。
- 専門知識を共有し、ともに学ぶ: 思春期の子どもには、依存症についての正しい知識を教えてあげることも有効です。例えば、脳の仕組みや遺伝・環境の要因、治療法などを親子で一緒に学んでみるのです。「依存症は意思の弱さではなく脳の病気である」「治療すれば回復可能である」といった科学的事実を知れば、子どもも多少なりとも親を見る目が変わるかもしれません。また、「自分も将来アルコールやギャンブルに依存しやすい体質かも」と不安を抱えている子には、そのリスクについて率直に話し合いましょう。先述のようにリスクが高まる傾向はありますが絶対ではないこと、逆にリスクを知って予防することができる旨も伝えます。実際、「高校生の時に依存症の知識を知っていたら、親は離婚せずに済んだかもしれない」という声もあったように ³、教育によって家族が救われるケースもあります。親子で依存症に関する本を読んだり、専門家の講演動画を見るなど、知識を共有する時間を持つのも建設的なアプローチです。
- 第三者によるカウンセリングやピアサポート: 思春期の子どもはプライドもあり、親には本音を見せにくいものです。そんな時、第三者の支援を利用するのは賢明な手段です。学校のスクールカウンセラーや、地域の青少年相談窓口、臨床心理士などに繋ぐことで、子どもが安心して話せる場を提供できます。また、同じような境遇の仲間と出会える場があれば理想的です。例えばアルコール依存症者の子ども向け自助グループ(ACoA=アラティーン)などが海外ではありますが、国内でも近年「ヤングケアラー(家族の介護や世話を担う若者)」支援の文脈で依存症家庭の子どもへの支援が注目されつつあります 。自治体やNPOが開催する交流会などがあれば参加を検討してみましょう。親や教師には言えない本音も、同じ痛みを知る仲間には話せることがあります。ピアサポートの力は思春期の若者にとって絶大です。
- 子どもの自立心の尊重と適切な距離感: 思春期は自立へ向かう時期です。家庭が不安定な場合、子どもはなおさら「早く自立したい」「大人になりたい」と願っているかもしれません。その気持ちを尊重し、頭ごなしに管理しようとしないこともポイントです。例えばアルバイトをしたいと言い出したら、危険がなければ挑戦させてみる、進路も子どもの意思をできるだけ尊重する、といった姿勢です。ただし完全に放任するのではなく、見守り役としての関与は続けましょう。適度な距離を保ちながらも「何かあったらいつでも相談してほしい」「あなたを大事に思っている」というメッセージを折に触れて伝えてください。子どもは鬱陶しがるかもしれませんが、心の底では親に見放されていない安心感を得るはずです。
- 将来への具体的サポート: 子どもが進学や就職を控えている場合、経済的・心理的なサポート計画を具体的に立てて伝えます。「学費はこれこれを利用して工面するつもりだ」「奨学金も一緒に調べてみよう」「就職するなら生活の準備を手伝うよ」等、子どもの将来に親身に関わる意思を示しましょう。家庭の事情で夢を諦めさせないこと、それが親としてできる償いの一つでもあります。また親自身が回復した暁には、「あなたが結婚するときは心配かけないようにするからね」「いつか孫の顔を見せてね」といった前向きな話題も出してみてください。最初は子どもも素直に聞けないかもしれませんが、親が未来を諦めていない姿を感じることは子どもにとって希望となります。
思春期の子どもとの関係修復は時間がかかるかもしれません。大切なのは焦らないこと、しかし諦めないことです。親御さんが誠意を持って接し続ければ、反抗的な態度の陰で必ず子どもはそれを感じ取っています。時間の経過と共に少しずつ打ち解ける瞬間が訪れるでしょう。そのためにも親御さん自身がぶれずに回復に取り組み、言動で信頼を示し続けることが何よりの近道となります。
親や家族が取るべき支援策:子どもを支えるために
ここまで見てきたように、親のギャンブル依存症は子どもの心に深い傷を残し得ます。しかし裏を返せば、親や周囲の大人の関わり次第でその傷を癒し、負の連鎖を断ち切ることも可能です ⁶。では具体的に、親や家族はどのような支援策を講じればよいのでしょうか。子どものケアと将来を見据え、以下のポイントについて詳しく解説します。
子どもへの接し方の基本姿勢
子どもへの接し方で最も大切なのは、「あなたのことを大切に思っている」「どんなことがあっても見放したりしない」というメッセージを行動と言葉で示し続けることです。依存症の問題で苦しむ家庭では、子どもはしばしば「自分なんて愛されていないのでは」と不安を抱えています。その不安を払拭するには、親の愛情と関心を示す具体的な働きかけが必要です。
- 無条件の愛情を示す: 子どもがたとえ非行や反発など問題行動を起こしても、「あなたを嫌いになったりしない」「どんなあなたでも大事だ」という姿勢を伝えましょう。叱るべき時は叱りつつも、人格を否定するような言い方は避けます。「○○した行為はいけないが、あなた自身は大切な存在だ」というスタンスです。親の愛情に揺るぎがないとわかれば、子どもは少しずつ安定を取り戻します。
- 傾聴と共感: 子どもが語る言葉に真摯に耳を傾けましょう。つい親はアドバイスや反論をしたくなりますが、まずは子どもの気持ちを繰り返し受け止めることです。「そんなふうに感じているんだね」「辛かったね」と共感を示し、決して笑い飛ばしたり否定したりしないでください。子どもは「自分の気持ちをわかってもらえた」と感じるだけで心が軽くなります。特に思春期の子には、親の説教より親に自分の話を聞いてもらえた経験の方が深い安心を与えます。
- 一貫性と信頼の回復: 依存症の過程で親が子どもとの約束を破ったり嘘をついたことがある場合、失われた信頼を回復するには時間がかかります。小さな約束を一つずつ守るところから始めましょう。「明日学校に迎えに行く」と約束したらどんなことがあっても守る、「今月は絶対ギャンブルをしない」と宣言したら必ず実行する、といった積み重ねです。子どもは初めは疑って見ているかもしれません。しかし、親の行動が言葉と一致して安定してくると、少しずつ再び信頼する気持ちが芽生えてきます。「口先だけじゃない。本当に変わろうとしているんだな」と伝わるまで、焦らず一貫性を示し続けることが大切です。
- 子どもを子ども扱いしすぎない: 年齢にもよりますが、ある程度大きな子ども(特に中高生)には一人の人格として敬意を払いましょう。依存症の問題を抱える親御さんはつい過干渉・過保護になってしまう場合もありますが、それでは子どもがかえって息苦しくなります。程よい距離感を持ち、プライバシーも尊重してあげましょう。「何かあれば助けるけれど、あなた自身の考えも尊重するよ」というスタンスです。子どもは信頼されていると感じると、自立心と自己肯定感を育みます。一方で支配的に接すると反発心や無力感を強めるので注意が必要です。
年齢に応じた説明の工夫
前述した通り、子どもには年齢に応じた形でギャンブル依存症の問題を説明することが重要です。知らされないままだとかえって子どもは不安になり、自分なりの悪い解釈をしてしまうからです ⁴。そこで、年齢帯別にどのような説明の工夫が効果的か整理します。
- 乳幼児にはスキンシップで伝える: 言葉が十分に理解できない子には、あえて詳しく説明する必要はありません。その代わり、「大丈夫だよ」「お父さん(お母さん)はあなたが大好きだよ」といった安心ワードを繰り返し伝え、抱きしめる・ほほ笑みかけるなどスキンシップで愛情を伝えます。言語ではなく雰囲気と表情で「心配しなくていい」と感じさせることがポイントです。
- 小学生には具体的かつ簡潔に: 小学生には、避けて通れない事実(借金がある、治療が必要等)もウソなく伝えるようにしましょう。ただし専門用語や難しい理屈は不要です。「パパはギャンブルがやめられない“病気”になった。でも今、一生懸命治そうとしているところだよ」など 短く核心をついた説明を心がけます ⁶。その際、「子どもには責任がないこと」「治療すれば良くなる見込みがあること」も忘れず付け加えます。小学生は親の言葉を意外によく覚えているものです。誠実に語りかければ、その言葉が心の支えとなります。
- 中高生には開示と議論: 思春期の子には、可能な範囲で詳細も含めてオープンに情報開示した方がよいでしょう。借金の額や今後の生活見通し、治療の方法まで、隠してもいずれ知れることは包み隠さず伝えます。中高生は「自分はもう子どもではない」と思っていますから、対等に扱われることで安心します。ただ伝えるだけでなく、子どもの意見や希望も聞くようにしましょう。「これからどうしていけばいいと思う?」と問いかけ、家族会議に参加させるくらいの姿勢が望ましいです。実際に判断を委ねるわけではありませんが、議論に加わることで子どもは「自分も家族の一員として頼られている」と感じ、当事者意識と冷静さを取り戻すことがあります。もちろん、親への批判や感情的な発言も出るでしょうが、それも踏まえて真剣に向き合うことが信頼回復につながります。
- 「病気モデル」で説明する: どの年齢にも共通しますが、「ギャンブル依存は意思の弱さではなく病気である」と伝えることが重要です ⁴。これは子どもの親に対する認識を変え、憎しみを和らげる効果があります。「親は悪い人間なのではなく、病気のせいでコントロールができなかったのだ」と理解できれば、子どもも解決に向けて協力しやすくなるでしょう。また、病気であるからには治療法や回復例があることも強調します。「○○という治療を受けている」「自助グループに通うことで良くなった人が大勢いる」と具体例を示すと、子どもは将来への希望を持てます。
- 家系や遺伝の話も正直に: 子どもが自分の将来を悲観している場合(「自分も遺伝で依存症になるのでは…」等)、科学的知見に基づき正直に話しましょう。遺伝的な影響は確かにあるが全てではないこと、環境要因も大きいこと、そして何より予防策があることを伝えます ⁶。例えば、「ストレス対処が上手になれば依存に頼らずに済む」ことや「絶対手を出さないと決めることで防げる」ことなどです。ただ闇雲に「あなたは大丈夫」と言うより、根拠を持って説明した方が子どもも納得し安心できます。
年齢に応じた説明は一度きりで終わりではありません。子どもの理解度や心情の変化に合わせて、繰り返し何度でも説明と対話の機会を持ってください。その都度質問を受け付け、新たな不安が出ていないか確認します。「もう話したから大丈夫」ではなく、子どもが納得して落ち着けるまで根気強く伝え続ける姿勢が重要です。
学校・支援機関との連携方法
学校や支援機関との連携は、親子だけで問題を抱え込まないための大切な戦略です。特に子どもが学校に通う年齢であれば、学校側の理解と協力があるかないかで子どもの負担は大きく変わります。
- 学校への連絡と相談: 前述のとおり、信頼できる教師やスクールカウンセラーがいる場合は家庭の状況をそれとなく伝えておくことをおすすめします。「実は家庭の事情で少し子どもが情緒不安定かもしれません」といった程度でも構いません。学校には生徒指導担当や養護教諭(保健室の先生)など、児童生徒の心身のケアを専門にするスタッフもいます。そのような方々に情報共有しておくことで、子どもが授業に集中できない日や情緒不安定な日があっても柔軟に対応してもらえます 。例えば授業中に様子がおかしければ保健室で休ませる、定期的にカウンセラー面談を組む、といったサポートが期待できます。教師側も事前に事情を知っていれば、「怠けている」「問題児だ」と誤解せず適切に見守れるでしょう。
- いじめ・差別への対策: ギャンブル依存症家庭への偏見や無理解から、子どもがいじめの対象になる可能性もゼロではありません。その場合も学校と連携し速やかに対処する必要があります。子ども本人が言い出しにくい場合は、親の方から「最近クラスで浮いていないか」「子どもの様子はどうか」と定期的に問い合わせてみましょう。何らかの兆候があれば、学校と協力していじめ防止策を講じます。場合によってはクラス替えや転校も視野に入れ、子どもの安全と尊厳を守ることを最優先してください。
- 支援機関との連携: 依存症問題に対応する行政・民間の支援機関は数多くあります。親御さん自身の治療支援は後述するとして、ここでは子どもや家族向けの支援について触れます。例えば各都道府県の精神保健福祉センターや保健所には、依存症専門の相談窓口があります 。そこでは家族の相談も受け付けており、「子どもにどんなケアをしたらよいか」といった助言をもらえるでしょう。また、地域によっては子ども家庭支援センターや児童相談所が家族丸ごとのカウンセリングを提供していることもあります。場合によっては家庭訪問や、一時的な子どものケア措置(短期里親・ショートステイ等)を提案してくれることもあります。親だけで抱えず、専門機関にどんどん頼りましょう。
- 自助グループとのつながり: 依存症本人にGA(ギャンブラーズ・アノニマス)という自助グループがあるように、家族向けにはギャマノン(ギャンブル依存症者の家族の自助グループ)があります ³。ギャマノンでは同じ境遇の家族同士が集まり、悩みを共有したり支え合ったりしています。そこに親が参加するのはもちろん、場合によっては中高生以上の子どもが一緒に参加できることもあります(グループによっては年齢制限があるかもしれませんので要確認)。実際、高校生の子が母親にギャマノンへの参加を勧め、それを機に父親もGAに通うようになったという例もあります ³。家族が回復に向け動き出すきっかけとして、自助グループとのつながりは非常に有益です。「自分たちだけじゃないんだ」と子どもも感じられ、孤独が和らぎます。また依存症経験者やその家族が語る体験談は、子どもの心にも響くものがあります。
- ヤングケアラー支援: もし子どもが家庭で過度な世話役割を担っている(いわゆる「ヤングケアラー」になっている)場合、その負担を軽減するために学校・行政と連携しましょう。2021年に施行された改正児童福祉法でもヤングケアラーの支援が位置付けられ、自治体によっては相談窓口や学業支援策が整備されつつあります 。例えば放課後の学習支援サービスや、ケアを担当する親族へのサポート等です。子どもが「家族の世話で勉強時間がない」「部活を辞めなければならない」などといった事態になっている場合、学校の先生やスクールソーシャルワーカーに相談し、利用できる公的サービスを探してみましょう。子ども自身に背負わせすぎないことが大切です。
学校や支援機関は、恥ずかしがったり遠慮したりせず利用すべき味方です。特に学校の先生方は、子どもの健やかな成長を願っている点で親と同じ立場です。すべてを詳細に話す必要はありませんが、適度に情報共有し協力を得ることで、子どもの支え手を増やしていきましょう。
支援制度・専門機関の活用
支援制度や専門機関をフル活用することは、家族全体の負担を軽減し子どもを守る上で重要です。日本には依存症問題に対する公的支援が少しずつ整備されてきています。親御さん自身の治療・更生と並行して、以下のような制度を検討してください。
- 生活面の公的支援: ギャンブル依存による経済的困窮に対しては、各自治体の生活困窮者自立支援制度を利用できる可能性があります 。これは生活保護に至る前段階の包括的支援で、家計相談や就労支援、場合によっては子どもの学習支援なども含まれます。また、多重債務に陥っている場合は法テラス(日本司法支援センター)や消費生活センターで無料相談が可能です 。債務整理によって生活を立て直せれば、子どもの生活安定にも繋がります。さらに、ひとり親家庭となった場合には児童扶養手当や医療費減免などの制度も利用できます。経済的な不安定さを放置しないことが、子どもの安心感回復には不可欠です。
- 医療機関での治療: 親御さん自身がまだ治療を受けていない場合、できるだけ早く専門医療機関につながりましょう。各都道府県に依存症治療の拠点病院が指定されており、精神科や依存症外来でカウンセリングや薬物療法を受けられます 。親が本格的に回復への一歩を踏み出すことは、子どもへの最大の支援策でもあります。「親が治ろうとしている」という事実自体が子どもにとって大きな希望となるからです ⁴。治療には家族の協力が重要になる場合もありますので、医師やカウンセラーと相談しながら家族面談等の機会を活用してください。
- 心理カウンセリング: 子ども自身が心的外傷(トラウマ)症状や抑うつ状態にある場合、専門の心理支援を検討しましょう。児童精神科や臨床心理士によるカウンセリング、プレイセラピー(遊戯療法)など、子どもの年齢や状態に合った方法があります。「家族以外の大人」に話を聞いてもらうだけでも子どもは救われますし、専門家は親には気づけないサインを察知してくれることもあります。費用面が心配な場合、自治体の教育相談や児童相談所で無料カウンセリングを紹介してくれることもあるので問い合わせてみてください。
- 家族教室・プログラムへの参加: 一部の地域では、依存症問題を抱える家族向けの教育プログラム(家族教室)を開催しています 。そこでは依存症に関する知識や対処法を学べるほか、同じ立場の家族同士の交流もできます。親御さんが学んだ内容を子どもにフィードバックしたり、場合によっては子どもも参加できるワークショップがあるかもしれません。例えばNPO法人ASKなどは予防教育アドバイザーの派遣事業等で、若年層への依存症教育にも取り組んでいます 。こうした機会を積極的に利用することで、家族全員が依存症への理解を深め、協力して問題に取り組めるようになるでしょう。
- 一時保護・ケア措置: 状況が深刻で子どもの安全が脅かされている場合、行政による一時保護などの措置も選択肢に入ります。例えば家庭内暴力が止められない、親の治療中に子どもの世話をする人がいない、といった場合です。児童相談所による一時保護や、児童養護施設・里親による短期預かりなど、子どもの身の安全と安定を確保する制度があります。親としては心苦しい決断かもしれませんが、子どもの命と健康を守ることが最優先です。一時的に離れて暮らすことでお互い冷静になり、後により良い関係で再出発できた例もあります。必要であれば専門機関の判断を仰ぎ、最善の方法を検討してください。
支援制度や専門機関は、「自分たちだけでは抱えきれない」と感じた時こそ活用すべきものです。特に行政の窓口は秘密厳守が基本ですので、プライバシーが外部に漏れる心配もいりません。遠慮や恥を捨てて手を差し伸べてもらうことが、結果的に子どもを救う一番の近道です。
回復後の信頼関係の再構築
最後に触れておきたいのは、親御さんが回復した後の子どもとの信頼関係再構築についてです。ギャンブル依存症からの回復はゴールではなく新たなスタートでもあります。親が賭博を断ち生活を立て直しても、子どもの心の傷が魔法のように消えるわけではありません。むしろ、親が正気に戻った段階で改めて子どもの深い傷つきが表面化することもあります。したがって、回復後も引き続き長期的な視野で子どものケアに取り組む必要があります。
- 謝罪と償い: 改めて冷静に過去を振り返り、子どもに対し心から謝罪する場を持ちましょう。回復過程で既に謝っているかもしれませんが、子どもにとっては親が本当に変わったかどうか観察する時間が必要です。しばらくギャンブルを断って安定した姿を見せた上で、「改めて本当にすまなかった」と伝えることに大きな意味があります。そして「これからは〇〇することで償っていきたい」と具体的な意思も示します。例えば「あなたの大学進学のために貯金を始める」「毎週日曜は一緒に過ごす時間にする」など、子どもの希望を取り入れた償いの計画を立てます。重要なのは、それを確実に実行することです。言葉だけでなく行動で信頼を取り戻していきましょう。
- 感謝と称賛を伝える: 回復までの間、子どもが耐えてくれたこと、家族を見捨てずについてきてくれたことに対して、感謝の気持ちを伝えましょう。「よく頑張ってくれたね、本当にありがとう」と素直に伝えるのです。そして、問題を抱えながらも成長した子どものことを褒めてあげてください。例えば「弟や妹の面倒を見てくれて助かったよ」「こんな大変な中でも学校を続けて立派だった」といった具体的な称賛です。否定的な体験が多かった子どもにとって、親からの肯定的な言葉は心の穴を埋める栄養となります。
- 再発防止の約束: 子どもが一番恐れているのは、「また元に戻ってしまうのでは」という不安でしょう。親としても再発のリスクはゼロではないことを肝に銘じつつ、再発防止の具体策を子どもと共有します。例えば「これからもGAに通い続ける」「ストレスが溜まったらすぐ主治医に相談する」「財布の管理はお母さん(お父さん)に任せる」といった対策です。さらに、「万が一再発しそうになったら正直に言う」と約束してください。完全に信用を取り戻すには時間が必要ですが、透明性のある姿勢を示すことで子どもも安心感を持てます。
- 楽しい思い出作りを再開する: 問題が長引く中で、親子で笑い合った記憶が少なくなっているかもしれません。回復後は意識して楽しい時間を積み重ねていきましょう。小旅行に出かけたり、一緒にスポーツや趣味を始めてみたり、日常の中でも記念日を祝ったり…。そうしたポジティブな共有体験が新しい信頼関係を築く土壌になります。「うちはもう大丈夫なんだ」「これからはこの人に頼っても平気なんだ」と子どもが心から思える瞬間を増やしていくのです。
- 子どもの成長を支援する: 回復後は、親自身が落ち着きを取り戻す分、これまでできなかった分まで子どもの成長をサポートしてあげてください。進学や就職、結婚など人生の節目節目で、できる限りの応援をしましょう。経済的支援はもちろんですが、精神的な後押しも大切です。「あなたならきっと成功する」「困ったらいつでも頼ってね」と声をかけ、子どもが自信を持って羽ばたけるよう支えます。親が回復した姿自体が、子どもにとって大きな励みであり誇りとなります。「うちの親は一度失敗したけど乗り越えたんだ」という事実は、子どもの生きる力にも繋がっていくでしょう。
信頼関係の再構築には、「これをすれば完了」というゴールはありません。日々の関わり合いの中で、少しずつ関係性が良くなっていくものです。大事なのは、親御さんが決して諦めず、愛情を持ち続けることです。子どもはそれを感じ取り、時間はかかっても必ず心を開いてくれると信じてください。
おわりに
ギャンブル依存症の親を持つ子どもたちは、計り知れないストレスと悲しみを抱えています。しかし、だからといって将来が閉ざされてしまうわけでは決してありません。親御さんが自分の病気と真摯に向き合い、子どものケアに心を配り続ければ、子どもの人生は必ず好転し得るのです。実際、親の世代で負の連鎖を断ち切り、子ども世代が健やかな人生を歩んでいる例も数多く報告されています ⁶。
あなた自身も依存症という苦しい病気と戦いながら、子どものことで心を痛めていることでしょう。その姿は決して無力ではありません。子どもへの愛情ゆえに悩み、より良い接し方を知ろうとしている時点で、あなたはもう回復と再生への道のりを歩み始めています。どうか自分を過度に責めないでください。依存症は「誰もが陥る可能性のある身近な病気」です ⁵。大切なのはそこからどう立ち上がるかです。
本記事で述べた知見や方法は、一度に全て完璧に実践する必要はありません。できることから一つずつ、少しずつで構いません。子どもと向き合う中で迷ったときは、ぜひ専門家や経験者の力も借りてください ² ³。あなたとお子さんには、思っている以上に多くの支援者が存在します。どうか孤立無援だと感じないでください。
最後に、子どもたちへ向けたメッセージの一節を紹介します。「お父さんやお母さんがギャンブルを止められないのはあなたのせいではありません。子どもは悪くないのです」 ⁴。この言葉を、まずは親であるあなた自身が深く胸に刻んでください。そしていつの日か、お子さん自身が心からそれを理解し、笑顔を取り戻せる日が来ることを信じましょう。親子で歩むこれからの道のりが、希望と信頼に満ちたものになるよう、心から応援しています。
参考文献
- 星和書店「親の依存症によって傷ついている子どもたち」 (親のアルコールやギャンブル依存症が子どもに与える影響が極めて深刻だが、対策がほとんど取られてこなかった現状を指摘)
リンク
- 消費者庁『ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ』 (ギャンブル依存症は家族との関係悪化や生活費の使い込み・借金などにより家族の生活に多大な支障を生じさせると解説。また家族が借金の尻拭いに翻弄され疲弊するケースが多いと指摘)
- 東洋経済オンライン(education×ICT)田中紀子「依存症への進行が速い『オンラインギャンブル』、高校生にも広がる危険な実態」(2024年5月11日) (ギャンブル依存症家庭の子どもに不登校が多いことや、「早く知っていれば親は離婚せずに済んだかも」と語る高校生の事例、家族が自助グループに参加し始めたケースなどを紹介)
- ギャンブル依存症問題を考える会『子どもたちへ』 (依存症は病気であり決して子どものせいではないこと、子どもは遠慮せず自分の気持ちを話し信頼できる大人に相談してほしいことなどを子ども向けに優しく説明)
- レタスクラブニュース「〝ギャンブル依存症の父〟子どもの貯金箱に手をつけた?…(3)」(2022年12月21日) (依存症の親を持つ子どもたちの心に暗い影が差し、生活を翻弄され自身の人生を悲観してしまう場合もあると述べた一節)※漫画『母のお酒をやめさせたい』からの抜粋記事
- 松下幸生「ギャンブルへの依存とストレス」(ストレス科学研究 33巻, 2018) (親がギャンブル障害の場合、その子どものギャンブル障害リスクは親に問題がない場合の3.3倍になるとの疫学研究結果を報告。また幼少期にギャンブルに曝露されることが成長後のギャンブル行動に影響すると示唆)
- 全日本断酒連盟機関誌 Web版「親は子どもに何ができるか – 世代間連鎖・共依存・アダルトチルドレン – 」 (依存症家庭で長子が親代わりとなり共依存関係に陥るケースや、「一家の英雄タイプ」と呼ばれる子どもが完全主義に陥りやすく将来アルコール依存症になるリスクもあることを解説)
- NPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)「世代連鎖を防ぐ」 (依存症の連鎖を防ぐために親ができることとして、子どもに事実を伝える(親が病気で子どもに責任はないこと、この病気は回復可能なこと等を年齢に応じた言葉で)、子どもが子どもらしくいられる安心・安全な環境を整える、生きるのが楽になる考え方や方法を教える――といったポイントを提言)