ギャンブル依存症は本人だけでなく家族全体に様々な問題をもたらす病気です。その依存症による家族問題の代表例ともいえるのが「共依存」という関係性です。家族は愛する人を救いたい一心で相手の問題を抱え込みますが、それがかえって状況を悪化させてしまう場合があります[1]。このように、良かれと思った支援がいつのまにか共依存という罠になり、家族自身をも苦しめるのです。
本記事では、ギャンブル依存症と共依存の関係性に焦点を当て、共依存の定義・症状から、陥りやすい背景や心理、問題が悪化するメカニズム、そして家族の適切な支援方法と境界線の引き方、さらに共依存から抜け出すための行動計画までを詳しく解説します。精神科医や心理カウンセラー、依存症支援団体など専門家の視点も交えながら進めますので、依存症者の家族として「もしかして自分も共依存かも」と感じ始めた方はぜひ最後までお読みください。自分と家族を守り、健全な関係を取り戻すヒントがきっと見つかるはずです。
共依存とは何か?その定義と特徴
共依存(コードペンデンシー)とは、本来は相手自身が対処すべき問題に周囲が過度に関与しすぎてしまう心理・行動状態を指します[2]。ギャンブル依存症のケースでは、本人がギャンブルそのものに依存しているのに対し、家族(特に配偶者など)は「ギャンブラーを助けたい」「支えてあげなければ」という思いから相手を過剰にコントロールしたり問題を肩代わりし、その結果、自分の生活や感情までも相手に振り回されてしまう状態になります[2]。つまり共依存は「関係性への依存」とも言われ、アルコールやギャンブルといった目に見える対象への依存とは異なり非常に気づきにくい厄介な問題です[3]。
共依存の概念はもともとアルコール依存症患者の家族関係から注目され始めたもので、今では薬物依存やギャンブル依存症、DV(家庭内暴力)や親子関係など様々な場面で使われます。ギャンブル依存と共依存も切り離せない関係にあり、家族が共依存に陥ると本人の問題がさらに深刻化しやすいことが知られています。言い換えれば、家族が「相手の問題に共に巻き込まれ、共に依存する」状態とも言えるでしょう。共依存に陥った家族は相手に尽くすことで自分の存在価値を見出しやすく、自分自身に焦点が当たらなくなってしまいます。いつの間にか日常のすべてがギャンブル依存症の本人中心に回り始め、家族自身が「ギャンブル依存症の人に依存している」かのような状況になるのです。
家族が陥りやすい共依存の症状・兆候
では、家族が共依存に陥っている場合、具体的にどのような言動が見られるのでしょうか。共依存状態の家族には次のような特徴的な行動や心理の兆候があります[2]:
- 借金やトラブルを肩代わりし、隠してしまう。 ギャンブルで生じた借金の返済を家族(妻や親など)が肩代わりし、自分の貯金や実家の援助まで使ってしまいます。また、取り立てやトラブルが起きても周囲に隠し、問題を一人で抱え込もうとします[2]。
- 相手の行動を過度に監視・制御しようとする。 帰宅時間や外出先を執拗にチェックし、少しでも怪しい様子があると疑心暗鬼になります。クレジットカードや財布を取り上げたり、職場や交友関係にまで干渉し、結果的に24時間相手に振り回されて自分の生活を見失ってしまいます[2]。
- 問題を自分のせいだと感じてしまう。 「私の至らなさが夫(妻)をギャンブルに走らせたのではないか」「家族としてしっかり支えてあげなくては」と過剰な責任感や罪悪感を抱えます。本来は自分に責任のない部分まで背負い込み、心身ともに消耗していきます[2]。
- 周囲の助けを拒んで孤立する。 「恥ずかしいから」「これくらい自分でなんとかしなきゃ」と思い詰め、誰にも相談しません。家族や友人、専門家からのアドバイスさえ「大げさすぎる」「理解してもらえない」と拒絶し、孤立を深めてしまいます[2]。
こうした行動は一見、「家族を思っての献身」にも映ります。しかし度を越して常態化している場合、まさに共依存に陥っていると考えられます。家族自身も限界ギリギリまで無理を重ね、周囲から孤立していくため、自力で抜け出すことが難しくなるのが特徴です。
共依存に陥りやすい背景と心理
なぜ家族は共依存に陥ってしまうのか? その背景には、個人の性格傾向や育った環境、社会的な要因などが影響しています。共依存になりやすい人には様々な特徴があると言われますが、特に「世話好き」で「自己評価が低い」という傾向が指摘されています[3]。
- 世話好き・尽くす性格: 誰かの役に立つことで自分の存在価値を見出そうとする人は、相手のための行動が行き過ぎて支配欲や過干渉に繋がり、共依存に陥りやすくなります[3]。「相手のため」と思い込みつつ、実は自分が必要とされる状況に依存してしまうのです。
- 自己評価の低さ: 自分に自信がなく、嫌われたくない一心で相手の要求に応え続けてしまう人も要注意です。自尊心が低いと相手が望んでいないことまで「見捨てられないように」と世話を焼いてしまい[3]、結果として不健全な関係にのめり込みがちです。たとえばDVや浮気を繰り返されても「この人を支えなくちゃ」と考えて離れられないケースは、自己評価の低さゆえの共依存の典型と言えます[3]。
また、幼少期の家庭環境も大きな影響を与えます。いわゆる「毒親」に育てられたり、親がアルコール依存症などで子供が親の世話をしてきたような場合、その子供(アダルトチルドレン)は共依存的な対人関係パターンを身につけやすいとされています。「毒親育ち」の人は多かれ少なかれ皆共依存状態になるとも言われるほどで[4]、幼少期に生き抜くために身につけた自己犠牲のクセを大人になっても手放せないのです。
さらに、日本社会における恥の意識や責任感も背景にあります。ギャンブル依存症というと世間体を気にして「家族の恥」と隠そうとする風潮が根強く、専門機関に頼らず家族だけで問題を解決しようとしがちです。「情けない話は外に漏らせない」「自分たちでなんとかしなければ」というプレッシャーから孤軍奮闘し、ますます共依存の沼にハマってしまうケースも少なくありません[2]。
以上のように、共依存に陥る背景には世話好きな性格傾向、低い自己肯定感、機能不全家族で育った経験、そして社会的な孤立要因などが複雑に絡み合っています。家族自身が「自分が支えなければこの人はダメになる」という強い思い込みに囚われてしまうと、知らず知らずのうちに共依存の関係が出来上がっていくのです。
共依存が問題を悪化させる悪循環
家族が共依存状態に陥ると、ギャンブル依存症の問題はますます悪化し、家族全体が負のスパイラル(悪循環)に巻き込まれてしまいます。共依存がもたらす主な悪影響を整理してみましょう。
- 家族自身の心身への負担: 共依存状態では家族は常に強い緊張感や不安感の中で生活するため、不眠や食欲不振、頭痛・胃痛などの身体症状が現れたり、抑うつ状態やイライラの悪化、仕事や社会生活に支障を来すことも増えます[2]。追い詰められた家族自身が心の病に陥ってしまうケースも珍しくありません。
- ギャンブル依存症本人の回復阻害: 一見、家族の過剰なサポートは本人を助けているように思えますが、実際には本人が自分の問題に向き合う機会を奪ってしまいます。たとえば借金を肩代わりしてしまうと「自分で返済する」という責任感が育たず、行動を厳しく監視・叱責すれば本人のストレスが高まり、かえってギャンブルへの逃避欲求を強めてしまう恐れがあります[2]。共依存によって家族が問題を背負い込むほど、本人は自覚や自発的な改善意欲を失ってしまうのです。
- 家庭全体への悪影響: 共依存状態が長引くと、家族関係は歪み、不信感と緊張感に満ちた家庭環境になります。特に子どもがいる場合、両親間のギスギスした雰囲気や不安を敏感に感じ取り、心身の発達に悪影響が及ぶことがあります[2]。家族全員がストレスを抱え、コミュニケーションも崩壊して、家庭内で孤立した個々がそれぞれ問題を抱える――そんな悪循環に陥りかねません。
このようにギャンブル依存症×共依存の関係は、お互いの状態をさらに悪化させる「負の連鎖」を生みます。家族が支えようと必死になるほど本人の依存症は深刻化し、一方で本人が改善しないほど家族はさらにのめり込んでしまうのです。問題解決の糸口を見失い、家族も本人も共倒れになってしまう前に、どこかでこの悪循環を断ち切る必要があります。
家族の支援と境界線の引き方
共依存の悪循環から抜け出す第一歩は、家族としての支援の仕方を見直し「適切な境界線」を引くことです。専門家は「愛情を持って適度な距離を置く」対応の重要性を指摘しています。決して見捨てるのではなく、依存症の本人に自らの問題と向き合わせるために無制限な手助けをやめるということです[5]。家族が過剰に支援し続ければ、依存症者の問題行動を結果的に助長してしまい共依存に陥ってしまいます[5]。そうならないためにも、「どこまでが自分の責任で、どこから先は本人の課題か」を意識し、冷静に線引きすることが大切です[2]。
具体的には以下のような対応策が境界線を保つ上で有効です[2]:
- 経済的な救済をしない。 借金の肩代わりやギャンブル資金の工面など、経済面で本人を支える行為は直ちに止めましょう。家計や財産を守るために必要最低限の防衛策(口座の分別管理など)を取るに留め、それ以上の金銭的フォローはしません。借金の返済方法について話し合い助言することはあっても、返済そのものは本人の責任と割り切ります[2]。
- 嘘や問題の隠蔽に加担しない。 本人が起こしたトラブルや嘘を周囲に隠してあげる行為も共依存を深めます。取り立ての電話を代わりに受けたり、職場や友人に嘘の説明をしたりするのはやめ、問題が表面化するのも本人の自己責任だと考えましょう。家族が「それはあなた自身の問題」と態度を示すことで、本人が現実に直面するきっかけを作ります。
- 家族は家族の生活を守る。 ギャンブル依存症の問題に振り回されて、他の家族の生活まで崩壊しては本末転倒です。子どもの生活や将来、そして支える家族自身の健康と日常をまず優先します。たとえば本人が生活費を入れない場合は別居や法的手段も検討し、家族が路頭に迷わないラインを確保します。「あなたの問題で家族まで壊されることは許さない」という毅然とした姿勢を持つことが境界線の設定につながります。
境界線を引くことは冷たく突き放すことではありません。むしろ、家族自身と本人双方のために必要な「愛ある距離感」です。家族が毅然とした線引きをすることで、本人もようやく自分の力で立ち直るしかないと理解し始めます。また家族側も、距離を置くことでこれ以上自分たちが壊れてしまわないよう守りを固めることができます。適切な境界線なしに問題に立ち向かうのは、地図なしで荒海に船出するようなものです。まずは家族として守るべき所と踏み込まない所を明確にし、「支援」と「干渉」を混同しないように心がけましょう。
共依存から抜け出すための行動計画
共依存の深みにハマっていると、自力でその関係性を変えるのは容易ではありません。しかし、家族が意識的に行動を起こすことで、少しずつでも共依存の悪循環から抜け出し、健全な状態を取り戻すことが可能です。ここでは、共依存から回復するための具体的な行動計画をステップ形式で示します。
まず最初に: 「自分が共依存に陥っているかもしれない」と問題を認識することが出発点です。共依存は本人も自覚しにくいものですが、少しでも兆候に心当たりがあるなら、それ自体が改善への大きな一歩になります。問題を認めたら、以下のステップに取り組んでみましょう。
- 専門家に相談する。 家族だけで抱え込まず、専門の機関に助けを求めましょう。精神科医や心理カウンセラー、依存症専門外来など、プロの視点からアドバイスを受けることで状況が客観的に見えてきます。各都道府県には依存症相談窓口が設置されていますし、病院や保健所で家族向けのプログラムを紹介してもらえる場合もあります。近くに適切な医療機関がない、あるいは多忙で通院が難しい場合はオンラインカウンセリングを活用する方法もあります。例えばオンライン相談サービスの利用により、自宅から専門家の支援を得ることも可能です。第三者のプロに話を聞いてもらうだけでも、心の重荷がかなり軽減されるはずです。
- 自助グループや家族会に参加する。 同じ悩みを持つ家族同士で支え合う場に飛び込んでみましょう。ギャンブル依存症本人の自助グループとして知られる「ギャンブラーズ・アノニマス(GA)」には、家族版の集まり(いわゆる家族の会や「ギャマノン」)も各地に存在します[2]。全国規模の団体もあり、経験者たちが集まる場では共依存の家族も支援の対象として受け入れられています[2]。自助グループでは、自分だけではないと実感できる安心感が得られるとともに、先輩家族の体験談から具体的な対処法や心構えを学ぶことができます。「家族の会なんて恥ずかしい…」と抵抗を感じるかもしれません。しかし勇気を出して参加してみると、孤独が和らぎ客観的なアドバイスを得られて、視界が開けてくるでしょう。
- 自分自身の生活と心身を大切にする。 共依存から抜け出すには、家族が自分の人生を取り戻すことが不可欠です。これまでギャンブル問題中心になっていた日常を見直し、自分のための時間を意識的に作りましょう。趣味に打ち込んだり、信頼できる友人や親族と会ってリラックスする時間を持つことは、乱れた心身のバランスを整える助けになります[2]。「一人で抱え込まない」ことも重要です。つらい気持ちを誰かに聞いてもらうだけでも違いますし、愚痴を吐き出せる場所があると心の余裕が生まれます。また、共依存状態では将来の展望が見えなくなりがちですが、あえて自分自身の目標を考えてみてください。仕事のキャリアプランや家族全体の将来像など、本人抜きにしても描けるビジョンがあるはずです。それらに目を向けることで、人生の主役を取り戻す感覚が養われ、結果的にギャンブル依存症の問題と健全な境界線を引くことにも繋がります[2]。
- 問題に関する正しい知識を学ぶ。 共依存からの回復には、冷静な知識武装も力を発揮します。専門書や体験記を読むことで、自分の状況を客観視し、適切な対処法を身につけることができます。例えば、田中紀子さんの著書『家族のためのギャンブル問題完全対応マニュアル』[6]には、ギャンブル依存症の家族が取るべき具体的対応策が網羅されており、「借金を肩代わりしない」「本人を自助グループに繋ぐ」などまさに共依存を防ぐための知恵が詰まっています。
リンクまた、心理カウンセラーである信田さよ子氏の『共依存―苦しいけれど、離れられない』[1]は、様々なケースにおける共依存の心理とその連鎖を解きほぐし、どうすればその関係性から抜け出せるかを示唆してくれる一冊です。リンクさらに、米国のメロディ・ビーティによる世界的な共依存克服の定番書『共依存症 心のレッスン』[7]は、共依存に陥りやすい人が「自分を大切にする」ためのセルフケアの方法を具体的に指南しています。このような信頼できる書籍や資料から学ぶことは、共依存という見えにくい問題を言語化し、対策を講じる上で大いに役立ちます。リンク
- 必要に応じて具体的な対策を講じる。 家族としてどうしても避けられない決断や対策もあります。例えば、本人がまったく治療に応じず家庭が経済的に破綻しそうな場合、法的手段(借金の整理や離婚も含め)を検討しなければならないかもしれません。また、本人が回復に向けて動き始めた場合でも、再発防止のために金銭管理のルールを作る、通院や自助グループ参加を促すなど、家族として協力できる実務面のプランを立てることも重要です。これらはケースバイケースですが、いずれにせよ家族だけで抱え込まず専門家と連携しながら進めることが望まれます。行動計画を立てる際も、自分達だけでは不安な場合は支援者に入ってもらいましょう。
以上のステップを実践していく中で大切なのは、焦らず一歩ずつ進むことです。長年かけて絡み合った共依存の関係は、一朝一夕で劇的に変わるものではありません。家族側が境界線を引き直したり自分の生活を取り戻し始めても、当初は罪悪感に駆られたり「このままで本当に良いのだろうか」と不安になるでしょう。しかし、それでも少しずつ実践を重ねることで、必ず状況は変化していきます。共依存の鎖から自由になるには、家族自身が「自分の人生を生きる覚悟」を持つことが肝心です。その勇気を支えてくれる人や知識を上手に借りながら、一歩一歩前進していきましょう。
まとめ
- 共依存とは何か: ギャンブル依存症の家族が陥りやすい共依存関係は、相手を助けたい気持ちが強すぎるあまり自分の生活や感情を犠牲にしてしまう状態を指します。家族にとって良かれと思った行動が、実は問題を深刻化させる落とし穴になり得ます。
- 共依存の悪影響: 共依存は家族自身を心身ともに疲弊させるだけでなく、ギャンブル依存症本人が自らの問題に向き合う機会を奪い、回復を妨げてしまいます。その結果、家庭全体が不安定になり、子どもを含めた家族関係にも悪影響が及ぶという悪循環が生じます。
- 抜け出すための対策: 共依存の罠から抜け出すには、専門家や自助グループに相談して客観的な支援を得ること、家族として適切な境界線を引いて支援と干渉を区別すること、そして家族自身の生活を取り戻し自分を大切にすることが不可欠です。知識を学び、必要に応じた対策を講じることで、少しずつ健全な関係性を取り戻すことができます。
ギャンブル依存症は本人だけでなく家族にも大きな影響を及ぼす難しい病気です。しかし、家族が適切なサポートとアプローチを取ることで、双方が少しずつでも回復と改善の道を歩み始めることができます。まずは「自分も共依存の可能性がある」と気づくことからスタートし、決して一人で抱え込まず専門家や信頼できる周囲に相談しながら、家族全体の健康的な関係を目指していきましょう。あなた自身と家族の未来のために、決して遅すぎることはありません。勇気を持って一歩を踏み出せば、必ず希望への道筋が見えてくるはずです。
参考文献・情報源
1. 信田さよ子『共依存―苦しいけれど、離れられない[新装版]』 – 朝日新聞出版(2020年)
2. KAIJUサポート:「共依存(コードペンデンシー)とは」 – ギャンブル依存症からの回復支援サイト(2023年)
3. 共依存とは?共依存に陥りやすい人の特徴や原因、抜け出し方法を徹底解説! – オンラインカウンセリングサービスcotreeコラム(2025年)
4. 〈わたしを救ってくれた本たち〉「共依存してるな」と感じたら読む本 – note(2024年)
5. ギャンブル依存症:家族が「突き放す」選択とその効果 – ギャンブル依存症問題解説サイト(2024年)