パチンコ店のスロットマシン。日本ではパチンコや公営競技など、日常的に様々なギャンブルが楽しまれている。
はじめに: 世界と日本におけるギャンブル依存症
ギャンブル依存症(ギャンブル障害)は世界中で深刻な問題となっており、WHO(世界保健機関)の推計では成人の約1.2%がこの障害を抱えているとされています。特にギャンブルによる害を経験する人は男性で11.9%、女性で5.5%にのぼり、ギャンブル依存症は男女問わず多くの人々に影響を及ぼしています。またギャンブル障害のある人は自殺のリスクが高まり、オーストラリアのある州では自殺者の4.2%がギャンブルに関連していたとの報告もあります。こうした世界的な傾向の中、日本も例外ではありません。
日本はパチンコや公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレース)など合法的に賭け事ができる場が多く存在し、その利用率も高い国です。2017年に厚生労働省が実施した全国調査によれば、日本の成人の生涯有病率は約3.6%(推定320万人)、過去1年の有病率でも0.8%(約70万人)に上ると報告されました。これは他の先進国(例えばフランス1.2%、オランダ1.9%)と比べても突出して高い割合です。さらに日本人男性の有病率は女性の約10倍とされ、特に男性に多い傾向があります。このように日本はギャンブル“大国”ともいえる状況にあり、カジノ解禁(IR整備)への動きと相まって依存症対策が重要視されています。
しかし、適切な治療と支援によってギャンブル依存症からの回復は十分可能です 。 ギャンブル障害は本人の意志が弱いから起こる「性格の問題」ではなく、脳の仕組みに起因するれっきとした「病気」であり、専門的なアプローチで克服できるものです 。本記事では、最新の知見に基づきギャンブル依存症の脳内メカニズムを解説するとともに、実際にギャンブル地獄から抜け出した人々の成功事例を紹介します。彼らがいかにして依存を断ち切り、新たな人生を歩み始めたのか、その秘訣(成功要因)を分析し、最後に当事者や家族が今日から取れる実践的な対策と専門家のアドバイスをまとめます。絶望せずに希望を持っていただくために、具体的な支援先やリソースも提示します。
脳科学から見るギャンブル依存症のメカニズム
ギャンブル依存症の背景には、脳の報酬系と衝動制御の機能不全という二つの側面があります。ギャンブルは勝ったときの高揚感によって脳内で大量のドーパミンを放出し、脳の「報酬系」を強力に刺激します。本来ドーパミンは食事や恋愛など生存に必要な行動で分泌され「快感」を与えるものですが、ギャンブルでは不自然なほど大量のドーパミンが放出されるため脳が興奮を過剰学習してしまいます。その結果、日常生活の楽しみでは物足りなくなりギャンブルでしか快感を得られない脳へと変化していきます。やがて脳はドーパミンへの耐性を獲得し、同じ興奮を得るためにより大きな賭け金や長時間のプレイを求めるようになります。これは薬物依存で見られる「耐性」や「より強い刺激の追求」と同様の現象です。実際、米国精神医学会の診断基準でもギャンブル障害は2013年から物質依存と同じ「嗜癖(アディクション)」のカテゴリーに分類され、アルコールや薬物依存症と並ぶ疾患と位置づけられています 。
加えて、ギャンブル依存症では衝動抑制や意思決定を担う前頭前野の機能低下も指摘されています。脳画像研究によると、ギャンブル依存症の人は健常者に比べて腹側線条体(報酬系の中枢)や前頭前野の活動が低下しており、報酬への反応が鈍くなっていることが分かっています。これは一見矛盾するようですが、「報酬欠乏仮説」と呼ばれるモデルで説明されます。もともと報酬系の働きが低いため強い刺激を渇望し、結果的にギャンブルのような刺激に惹かれるというものです。一方でギャンブル関連の映像や場面を見せると依存者の脳は報酬系が過敏に反応する場合もあり、いわば「ギャンブルの cue(きっかけ)」に対してのみ脳が過剰に興奮しやすくなっています。さらに前頭前野(特に腹内側前頭皮質や眼窩前頭皮質)の機能低下により衝動を抑えるブレーキが利きにくくなり、目先の誘惑に抗えなくなる傾向があります。そのため、ギャンブル依存症の人はリスクと報酬の評価や長期的な見通しの判断が適切にできなくなり、負けが込んでも「次は取り戻せる」と楽観的に考えて賭け続けてしまうのです。実際、ギャンブル障害の人は健常者よりも衝動性が高いことが心理テストなどで示されており、衝動的な性格傾向や併存するADHDなどがリスク要因となることも知られています。
このように、ギャンブル依存症は脳の報酬追求システムと抑制システム双方のバランスが崩れた状態と言えます。その結果、本人の意思だけではコントロールが極めて難しくなり、「分かっていてもやめられない」悪循環に陥ってしまうのです。しかし裏を返せば、専門的な治療介入によって脳の偏った働きを正常化させることで回復が期待できるということでもあります。次章では、実際にギャンブル依存のどん底から立ち直った人々のケースを見てみましょう。脳に刷り込まれた強固な嗜癖を乗り越え、新しい人生を築いた彼らの体験には、きっと回復へのヒントが隠されています。
克服の成功事例:依存から回復した人々の物語
ケース1: パチンコ依存を乗り越えた30代男性の場合
Aさん(30代男性)は18歳で先輩に誘われて初めてパチンコを経験しました。最初の1~2年はアルバイト代の範囲で遊んでいましたが、20歳を過ぎる頃からのめり込みが加速し、金銭感覚が麻痺して消費者金融から借金をしてまで毎日パチンコ店に通うようになりました。勝てばそのお金をさらにギャンブルにつぎ込み、負ければ取り戻そうとしてさらに借金するという繰り返しで、雪だるま式に借金が膨らんでいきました。30歳になる頃には複数の金融業者から借入れを重ね、自分でも総額が把握できないほどの多重債務を抱えていたのです。
そんな折、Aさんの家族が隠れていた借金に気づいたことが転機となりました。家族に強く勧められ、Aさんは意を決して専門治療機関である依存症クリニックを受診しました。診断は「病的賭博(ギャンブル障害)」。医師から病気であると告げられたとき、Aさんは「もう嘘をつき借金に怯える日々を続けなくていいのだ」と肩の荷が下りる思いがしたと言います。その後、週1回のペースで夜間のギャンブル回復ミーティングに通院し始めました。仕事を続けながら治療に取り組める環境だったため、借金返済と両立しつつ治療を継続できたことは大きな助けとなりました。先輩患者から債務整理の方法も教わり、自ら手続きをして借金を整理したことで金銭面の不安も和らぎました。あれから2年、Aさんは今も欠かさずミーティングに通い続けることで「今日一日だけは賭けない」生活を守れています。彼は「これからも仲間と支え合いながら平穏な日々を維持したい」と語っています。
ケース2: 家族の支えで再生を果たした60代男性の場合
Bさん(60代男性)は一見まじめな会社員でしたが、実は40代頃から仕事のストレスを理由に週末ごとに競馬場へ通い、多額の賭け金をつぎ込んでいました。妻に対しては「土日も仕事だ」と嘘をつき、競馬に通っていたため、長年にわたり家族は彼のギャンブル問題に気づきませんでした。しかし60歳で定年退職を迎えた際、Bさんはついに妻に数百万円規模の競馬の借金があることを打ち明けざるを得なくなりました。退職金だけでは返済しきれず、夫婦の貯蓄にも手を付けて何とか完済しましたが、Bさんは「もう二度とギャンブルはしない」と約束したにもかかわらず、数か月後にはまた競馬を再開してしまったのです。
半年ほどで再び多額の借金を作ったBさんに対し、失望した妻は「もうあなたとは口もききたくない」と愛想を尽かしました。しかしこのままでは家庭が崩壊すると考え直し、妻は切羽詰まった思いで専門クリニックの家族相談に駆け込みます。その働きかけでBさんも治療を受ける決心をし、以降1年間にわたり定期的にクリニックのミーティングに通いました。妻も並行して家族教室(家族向けのプログラム)**に参加し、依存症への正しい対応法を学んでいきました。「借金を肩代わりしない」「嘘を追及しすぎない」など境界線の保ち方を身につけたことで、妻は夫に振り回されず自分の生活を取り戻せるようになったと言います。通院から1年が経過した頃には夫婦間の会話も増え、一緒に過ごす時間を楽しめるまでに関係が修復しました。妻は「時々また競馬をしているのではと不安になることもある」が、「その度に自分も学んだことを思い出し、過干渉しないよう努めている。夫を信じ、自分自身の生活も大事にしたい」と述べています。Bさん本人も、今では「家族の信頼を裏切りたくない」という思いが強くなり、再びギャンブルに手を出さないよう夫婦で協力し合っています。
ケース3: オンライン賭博から立ち直った40代女性の場合
Cさん(40代女性)は若い頃から友人とカジノで遊ぶなど、ギャンブルを娯楽の一つにしてきました。20代は社交の範囲で節度を保っていましたが、30代になるとオンラインカジノ(スロットやビンゴゲーム)にのめり込み、夜な夜な賭け事をするようになりました。ある日、Cさんはオンラインスロットでわずかな掛け金から高額ジャックポットを当てる幸運を経験します。それ以来「もっと大きく賭ければ大勝ちできるかもしれない」と興奮し、賭け金は当初の100倍に膨れ上がっていきました。そして迎えた最悪の日、彼女は数時間のうちに年収に相当する額のお金を失ってしまったのです。一時は運良く同額を勝ち返したものの、結局その日のうちに全て失い、手元には借金だけが残りました。Cさんは恐怖と絶望で言葉を失い、食事も喉を通らず眠れない日々が続きました。
この経験からさすがに身を引こうと考え、彼女は一時的にギャンブルから離れました。借金も何とか返済し、平穏を取り戻したかに見えました。しかし心の奥底ではまだ「また勝てるかもしれない」という誘惑が消えておらず、さらに悪いことに複数のオンライン賭博サイトからは「無料ボーナス」など勧誘のメールがひっきりなしに届いていました。人生にストレスが増えたあるとき、Cさんはつい「一度だけなら…」と再び賭けてしまい、それを機にあっという間に泥沼へ逆戻りしてしまいます。3年間守ってきた禁ギャンブルを破り、以前にも増して大きな損失と自己嫌悪を味わう結果となりました。「もう自分一人ではどうにもならない」と感じたCさんは、意を決して自助グループ(ギャンブラーズ・アノニマス:GA)の扉を叩きました。しかし最初に訪れたGAミーティングでは参加者のほとんどが男性であることに圧倒され、自分の居場所ではないように感じてしまいます。それでも諦めず、ギャンブル専門のカウンセリングを個別に受けたり、女性向けの支援情報を探したりと模索を続けました。そうした中、たまたま知った民間団体のピアサポート・プログラムに参加する機会を得ます。このプログラムでは、自らも過去にギャンブル問題を経験した女性スタッフが1対1で相談に乗ってくれました。同じ痛みを知る「仲間」と話す中で、Cさんは次第に心を開き、自分が感じている孤独や罪悪感を共有できるようになりました。「回復の道のりは人それぞれ違うけれど、誰にも支えてくれる人がいる」と実感できたことが大きな力になったと言います。その後Cさんは再びGAにも通い始め、今度は先輩メンバーにスポンサー(伴走者)になってもらって日々の誘惑を乗り越える術を学びました。こうしたピアサポート(仲間支援)と専門カウンセリング**を併用したことで彼女のギャンブル衝動は次第にコントロール可能となり、断ギャンブル1年以上を達成します。現在Cさんは安定した日常生活を送りながら、「いつか自分も誰かの力になりたい」と、回復者による支援活動に参加すべく準備を始めています。「あの頃の自分には想像もできなかった穏やかな気持ちを取り戻せました。同じ悩みを持つ人に、諦めなくて大丈夫だと伝えたい」——Cさんの言葉には、自信と希望が込められていました。
成功事例に共通する成功要因とは?
上の三つのケースから明らかなように、ギャンブル依存から立ち直った人々にはいくつかの共通点が見られます。本人の境遇や回復までの経緯は様々ですが、その成功要因(秘訣)には共通するパターンがあります。近年の研究でも、ギャンブル障害からの回復には以下の4つの要素が核となっていることが示されています :
- 問題への「気づき」と決断: まず本人が底つき(どん底)経験や周囲からの指摘を通じて「自分はギャンブルに依存している」という現実に向き合い、このままではいけないと強く自覚することが出発点になります 。Aさんの場合は家族に借金を知られたこと、Bさんの場合は妻に見放されかけたこと、Cさんの場合は巨額の損失と再発による絶望感が契機となり、それぞれ本人が問題を認める転機となりました。こうしたインサイト(洞察)がなければ回復は始まりません。
- 適切な支援の活用: 次に、専門の医療機関やカウンセリング、自助グループなど外部のサポートを積極的に活用した点も共通しています。依存症は一人で克服するのが難しく、AさんやBさんは依存症専門クリニックで治療プログラムやグループ療法に参加し、CさんもGAやピアサポートを利用しました。これにより仲間の励ましや専門家からの適切なアドバイスを得て、孤独感が和らぎモチベーションを維持できています。【支援に繋がる勇気】が回復への大きな推進力になりました。
- 自己効力感とコミットメントの向上: 支援を受ける中で、本人が「自分にも変われる」という手応えを掴み、回復に向けたコミットメント(誓約)を強めたことも重要です 。例えばAさんは借金整理を自分でやり遂げた成功体験から自信を取り戻しました。Bさんは家族と向き合い信頼関係を修復する中で「二度と裏切りたくない」という責任感が芽生えています。Cさんも仲間からの承認を得て自己肯定感が高まり、「自分も人の役に立てるかも」という目的意識を持つまでになりました。こうしたポジティブな変化がさらなる回復の原動力となり、ギャンブルに頼らない生活の充実へとつながっています。
- 再発防止への取り組み: 最後に、共通しているのは再発のリスクを認識し、長期的な対策を講じている点です 。ギャンブル依存は完治が難しく、「一生回復し続ける病気」とも言われます。だからこそAさんは現在もミーティング通いを継続し、Bさん夫婦も定期的な話し合いや金銭管理の工夫を怠りません。Cさんも自助グループでスポンサーと連絡を取り合い、強い衝動が生じたときはすぐ助けを求められる体制を作っています。皆、再燃の兆候に注意を払い、油断せずに対処する術を身につけたことで、せっかく取り戻した平穏な生活を守り抜いているのです。
以上のように、回復者たちに共通するキーワードは「気づき」「支援」「自己効力感」「再発予防」です。これらは裏を返せば、現在ギャンブル問題に苦しんでいる人々への重要な示唆となります。すなわち、正しい理解とサポートさえあれば、どんなに深刻な依存状態からでも抜け出せる可能性が十分にあるということです。では具体的に、当事者や家族はどのような行動を取ればよいのでしょうか。次の章では、専門家の知見に基づいた実践的なアドバイスを紹介します。
回復に向けて今日からできる実践ガイド
ギャンブル依存からの回復には、本人の努力だけでなく家族や周囲の協力も欠かせません。以下に、当事者とその家族が今日から実践できる具体的なステップをまとめます。専門家のガイドラインやエビデンスに裏打ちされたポイントを紹介しますので、できるものから取り入れてみてください。
- 問題を認め、まずは専門家に相談する: 依存症からの回復は、「助けを求める勇気」から始まります。ギャンブル問題を抱えていることを恥じる必要はありません。まずは信頼できる家族や友人に打ち明け、専門の相談機関に連絡しましょう。日本には24時間365日対応の無料相談ダイヤル(☎0120-683-705)があり、臨床心理士などの専門カウンセラーが匿名で相談に乗ってくれます。また各都道府県の精神保健福祉センターや依存症治療拠点医療機関でも相談・受診が可能です。「一人では無理だ」と思ったら、自力で何とかしようとせず専門家の力を借りることが回復への第一歩です。専門家に話すことで客観的な評価を受けられ、適切な治療プランを立てることができます。
- 家族は境界線を保ちつつ支援する: 当事者の家族やパートナーは、支えになりつつも毅然とした態度を取ることが大切です。具体的には、経済的な尻拭いを何度もしないようにし、必要以上に世話を焼きすぎないようにしましょう。「もう二度としないなら今回だけ…」と借金を肩代わりすることは、結果的に問題行動を長引かせてしまいます。代わりに「あなたのためにならないからお金は貸せない」「治療に繋がるなら協力する」といった境界線(リミット)を明確に伝えてください。愛情を持ちつつも毅然と断る姿勢が、本人に現実と向き合わせる契機になります。また暴言や詰問は逆効果なので避け、共感的に接することも忘れずに。家族自身も必要に応じてカウンセリングを受けたり、同じ悩みを持つ家族の自助グループ(例えばギャマノンなど)に参加したりして、心の負担を適度に発散するよう心がけましょう。
- 専門の治療プログラムを受ける: ギャンブル依存症は脳の病ですから、専門的な治療によって改善が期待できます。代表的な治療法は認知行動療法(CBT)で、ギャンブルに対する歪んだ考え方を修正し、衝動をコントロールするスキルを身につけることを目的とします。実際、認知行動療法はギャンブル依存症の再発率を下げる有効な方法として多数の研究で支持されています。また場合によっては薬物療法が効果を発揮することもあります。抗うつ薬や気分安定薬はうつ病・不安症など併存症状の改善に役立ち、特にナルフレキソンなどのオピオイド拮抗薬はギャンブル衝動そのものを弱める効果が報告されています。海外の臨床研究では、ナルフレキソン投与により「賭けたい気持ちが劇的に減った」という事例も報告されています。治療法の選択は専門医と相談しながらになりますが、入院・通院プログラムや薬物療法も恐れずに検討してください。適切な治療介入は回復への近道となります。
- 自助グループに参加し仲間の支えを得る: 当事者同士のピアサポートは回復において非常に大きな力となります。他の依存症と同様、ギャンブル依存症でも「自助グループ」が世界中に組織されており、日本国内でも各地で定期的にミーティングが開催されています。代表的なものがギャンブラーズ・アノニマス(GA)で、12ステッププログラムに沿って互いの体験を語り合い、賭けない生き方を日々実践するための互助組織です。研究によれば、GAミーティングに定期的に参加した人は参加しなかった人に比べてギャンブル頻度が減少し、抑うつ症状も軽減したという報告があります。ミーティングでは「自分だけじゃない」という安心感が得られ、先輩メンバーの体験談から具体的な対処法を学ぶこともできます。参加に最初は抵抗があるかもしれませんが、プログラムに参加した人の70~75%はギャンブルを断つことに成功しているとの専門家の分析もあります 。恥ずかしさやプライドを捨て、ぜひ近隣の自助グループを活用してください。自助グループは参加費無料・匿名OKで、飛び込み参加も可能です。【仲間と支え合う絆】こそ長い回復の道を歩む上で大きな支えとなります。
- 金銭管理と環境調整で誘惑を遠ざける: 日常生活においては、ギャンブルの誘因をできるだけ減らす工夫が欠かせません。まず金銭面では、使えるお金が多いと再燃しやすいため、信用できる家族に通帳やカード類を預けてしまうのも有効です。また給料日に自動で貯蓄に回す仕組みにしたり、財布に持つ現金を最低限にしたりして、衝動的に賭けられる状況を作らないようにしましょう。実際、パチンコ業界では「自己申告・家族申告プログラム」という仕組みが導入されており、本人や家族が申し出れば1日の利用金額や来店頻度の上限を設定したり、特定店舗への入店禁止(自己排除)措置を取ることができます 。このような制度も積極的に利用しましょう。同時に、日常生活の中でギャンブルを連想させるものを断つことも重要です。例えばギャンブル関連のアプリやサイトはアンインストールし、賭け事仲間とは距離を置く努力をしてください。代わりに趣味や運動など健全な活動で日々の充実感を得るようにします。散歩やジョギングを習慣にするとストレス発散になり、衝動が湧いた時にも気分転換になります。環境と行動パターンを変えることで、ギャンブルが「日常の一部」でなくなっていきます。
- 再発に備え継続的にフォローを受ける: ギャンブル依存症は再発のリスクが常につきまといます。「今回やめられたからもう大丈夫」と油断するのは禁物です。むしろ、再発は起こり得るものと想定して準備しておくことが肝心です。具体的には、治療や自助グループへの参加を最低1年間以上は継続し、できれば数年間はフォローを受け続けましょう。断酒会で「今日はやめられても明日は分からない」と言われるように、ギャンブルも一日一区切りで油断しない姿勢が大切です。もし「また賭けたい」という強い衝動に駆られたら、すぐに主治医やカウンセラー、自助グループの仲間(スポンサー)に連絡して対処法を仰いでください。衝動は一時的な波に過ぎず、誰かと話すうちに乗り越えられることが多いものです。またカレンダーに「〇日間賭けずに過ごせた」と記録したり、小さなご褒美を用意したりしてモチベーションを維持する工夫も有効です。再発しやすい状況(飲酒時・ボーナス後・ストレスが溜まった時など)をあらかじめ洗い出し、そうした場面に近づかない計画を立てておくことも有用でしょう。仮に再発してしまっても過度に自分を責めず、すぐ信頼できる人に相談して仕切り直せば、やり直しはいくらでも利きます。継続的なフォローと対策さえ怠らなければ、再発のリスクを最小限に抑えつつ回復の歩みを進めていけるのです。
以上が専門家の推奨する主な実践策です。すべてを完璧に行う必要はありませんが、できるものから少しずつ取り組むことが肝心です。一歩踏み出せば、必ず状況は変わっていきます。
おわりに: 希望を持ち続けることの大切さ
ギャンブル依存症は本人や家族にとって本当に辛い病気ですが、決して絶望する必要はありません。本記事で紹介したように、どんなに深刻な状態からでも回復した人たちがいます。彼らの物語は「適切な支援と諦めない気持ちさえあれば、人生を取り戻せる」という希望を示しています。克服への道のりは決して平坦ではありませんが、だからこそ回復後の人生は以前にも増して充実したものになるでしょう。
大切なのは、本人も家族も孤立しないことです。恥ずかしさや罪悪感から問題を隠してしまう気持ちは理解できますが、孤独な戦いは解決を遅らせるばかりか状況を悪化させます。勇気を出して一歩外に助けを求めれば、あなたを支える専門家や経験者が必ずいます。全国どこにいても利用できる相談窓口や、自助グループ、インターネット上のコミュニティなど、今や支援のネットワークは非常に充実しています。例えば、厚生労働省監修のポータルサイトでは地域の相談機関や医療機関リストが公開されていますし、民間団体主催の回復プログラムも多数存在します。必要なら本記事末尾のリファレンスから関連情報を辿り、利用できるリソースをチェックしてみてください。
最後になりますが、回復には時間がかかります。一進一退を繰り返すかもしれません。それでも決して自分を見捨てないでください。周囲の人も、どうか長い目で見守ってあげてください。ギャンブル依存症は克服可能な病です。「今日一日賭けない」という積み重ねがやがて大きな自信となり、新しい未来を切り開きます。本記事がその第一歩を踏み出す一助になれば幸いです。あなたやご家族が再び笑顔と安心を取り戻せる日が来ることを、心から願っています。
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