ギャンブル依存に陥るきっかけと初期症状
ギャンブル依存症は誰にでも起こり得る「心の病」です。きっかけは人それぞれですが、孤独感や強いストレスなど、現実から逃れたい気持ちが引き金になることが多いと言われます 。例えば、日々の仕事の重圧や人間関係の悩みから解放されたいと感じ、たまたま手を出したパチンコやオンライン賭博にのめり込んでしまうケースがあります。実際、「まじめで優しい夫」だった男性が「ストレスがたまり、ギャンブルに使ってしまった」と告白した例もあります。また、結婚や出産を機に環境が変化し、マリッジブルー(結婚後の憂うつ)や育児の孤独から逃れるために気晴らしに始めたギャンブルが習慣化してしまうことも少なくありません(※)[^1]。
初期症状としては、ギャンブルへの没頭が徐々に日常生活に現れてきます。例えば、「少しだけ」のつもりが時間やお金をつぎ込みすぎてしまったり、負けても「失った分はギャンブルで取り返す」と思い込んでやめられなくなることがあります。学校や仕事をサボってまでギャンブルを続けるようになったら要注意です。事実、ある大学生は賭博に夢中になるあまり授業や試験を欠席して留年を重ねており、その時点ですでに依存症が始まっていたと振り返っています。また、ギャンブル中毒の人は「頭の中で火山が噴火したみたいに衝動が止められない」と表現するように、自分でもコントロールできない強い衝動に駆られることが特徴です。この段階では本人もまだ病気の自覚がなく、周囲も単なる娯楽の範囲だと見過ごしてしまうことが多いでしょう。
[^1]: ※具体的な事例としての記述です。実際にマリッジブルー等を原因としたギャンブル依存の公式な調査結果はありませんが、専門家によればうつ状態や不安障害がギャンブルを始める背景にあることが多く、ある研究では問題ギャンブル行動に先行して気分障害があったケースが全体の70%にのぼったと報告されています 。環境の変化による孤独感やストレスも、こうした気分の落ち込みにつながるリスク要因と考えられます。依存が進行する過程と日常生活への影響
一度ギャンブルにのめり込むと、その依存は静かにしかし確実に進行していきます。最初は小額だった賭け金も徐々にエスカレートし、勝っても負けてもさらに大きな賭けに手を出すようになります。ある男性は「パチンコ・スロットではある程度の金額だったのが、競馬にはまったら金額が大きくなった。ほとんどすべてのギャンブルに手を出してしまった」と語っています 。こうして「もっと」「次こそは」と際限なく繰り返してしまうのがギャンブル依存症の怖さです。
依存が進むにつれて、本人の生活も崩壊の兆しを見せ始めます。以下に、進行過程で現れる主な影響を挙げます。
- 経済的破綻(借金地獄): ギャンブル資金を工面するために貯金を使い果たし、消費者金融やカードローンで多重債務を抱えるようになります。例えば、ある主婦の夫はギャンブルにのめり込み、発覚時には1000万円以上の借金を負っていました。借金の返済のためにさらに借金を重ねる悪循環に陥り、家庭の金庫や子どもの学資保険にまで手を付けるケースもあります。返済日は月に何度も訪れ、毎月20万円近くが借金返済に消えるという家庭もありました。それでも本人は「ギャンブルで負けたお金はギャンブルで取り返すしかない」と考えていたと言います。
- 嘘と隠し事の増加: ギャンブル依存症者は、負けが込んだり借金が嵩んだりすると、その事実を隠そうとします。家族に対して平気で嘘をつき、借金やギャンブルを隠蔽するようになります。ある妻は夫のポケットから複数の消費者金融のカードが出てきて初めて巨額の借金を知りました。夫は「今回だけ」と言い訳しましたが、それ以降も嘘を重ねて借金を増やし続け、発覚のたびに妻が尻拭いをする事態になりました 。こうした裏切り行為により、家族の信頼関係は深く傷ついていきます。
- 日常生活の破綻: ギャンブル中心の生活になると、仕事や学業、家庭生活が疎かになります。ギャンブルのために無断欠勤や遅刻を繰り返し、職場で問題を起こす人もいます。実際に「仕事中でも友人や家族といるときでもギャンブルのことが頭から離れなかった」という当事者もおり 、勤務時間中にオンラインカジノに没頭してしまう人すらいます。業務に集中できず成績が落ちたり、金銭トラブルで職場の金に手を出して懲戒解雇・逮捕に至った例も報告されています。家庭では約束を破ったり行事をすっぽかしたりして、配偶者や子どもとの関係が悪化します。食事や睡眠も不規則になり、健康面でも影響が出ることがあります。
- 社会的・法的トラブル: 依存が重度化すると、犯罪に走る危険も高まります。ギャンブル資金欲しさに横領や窃盗、強盗などの事件を起こしてしまう人も少なくありません。あるケースでは、ギャンブル好きだった父親が会社の金を横領し、その結果家族が離散してしまいました。また、ヤミ金融から借金して首が回らなくなり、取り立ての電話が自宅や勤務先にまでかかってくるようになったという家族の悲痛な訴えもあります。最終的に自己破産や離婚に追い込まれ、「家族も職も失った」という公務員の例も報道されています。このように、ギャンブル依存症は当事者本人のみならず、周囲の生活や社会生活全般に深刻な影響を及ぼすのです。
家族・パートナーから見た変化と感情
当事者がギャンブルにのめり込んでいく裏で、家族やパートナーは大きな混乱と苦悩に直面します。その変化は当初ゆっくりと進むため、家族側は「最近様子がおかしい」と薄々感じつつも、具体的に何が起きているのかわからない状態が続くことがあります。しかし借金の督促状や通帳残高の異変など決定的な証拠とともに現実を突きつけられたとき、家族は大きなショックを受けます。「まさか自分の夫(妻)が…」「うちの子に限って…」という思いから、一種のパニックや混乱状態に陥ることも少なくありません。
ギャンブル依存症の家族が味わう主な感情として、怒り・不安・無力感の三つが挙げられます。
- 怒り: 嘘をつかれ続けたことへの怒り、家族を裏切り家庭をめちゃくちゃにしたことへの怒りが込み上げます。例えば、先述の夫に幾度も借金を隠され肩代わりさせられた妻は、「借金そのものより嘘をつかれていたことのほうがつらかった」と語っています。怒りはやがて憎しみに近い感情に発展し、「ギャンブルなんてこの世からなくなってほしい」と毎日叫びたい気持ちになることもあります。実際、ギャンブル依存症者の妻だったある女性は「パチンコ屋を見るたびに放火したくなる」と過激な言葉でその怒りを表現しています(冗談だと断りつつも、それほどやりきれない思いだったのでしょう)。家族は愛情と怒りの板挟みに苦しみ、感情のコントロールが難しくなっていきます。
- 不安・恐怖: 将来への強い不安にも苛まれます。借金の保証人になっていれば自分たちの生活基盤まで崩れる危険がありますし、返済のメドが立たなければ「このままでは破滅してしまうのではないか」と夜も眠れない思いでしょう。また、「また嘘をついてギャンブルをしているのでは?」「最悪自殺してしまうのでは?」と四六時中不安が頭から離れなくなったと語る家族もいます 。実際、夫が多額の借金と罪悪感から「ベルトで首を吊ろうとした。生きていてごめんね」と口にしたケースもあり 、パートナーは常に最悪の事態を想像して怯える日々を送っていました。「次は何をしでかすか分からない」という恐怖から、夜も財布やカード類を肌身離さず抱えて寝るほど警戒せざるを得なかったとの証言もあります。
- 無力感・絶望: 家族として何とか助けたい、立ち直らせたいと思う一方で、何をやっても効果がない現実にぶつかり深い無力感を味わいます。「もうどうしようもない」「この人は二重人格ではないか」と疑いたくなるほど状況が理解できず、八方塞がりの気持ちになることもあります。ある妻は夫の嘘と借金が繰り返された末に**「何が本当で何が嘘か分からなくなり混乱した。毎日のように夫を罵り、家庭生活はめちゃくちゃ。心の中は怒りと絶望でいっぱいだった」と振り返っています。親の立場でも、「信じてあげなきゃという気持ちが先走ったけれど、結局裏切られ続けて本当につらかった」と涙ながらに語る母親もいました。このように、家族は怒りや悲しみを通り越して次第に無力感に苛まれ、自分も壊れてしまいそうな感覚**に陥ります。専門家によれば、家族はしばしば共依存(依存症者に必要とされることで自分の価値を見出そうとする状態)に陥りやすく 、問題に振り回される中で正常な判断力を失ってしまうこともあるのです 。
家族はまた、周囲に相談できず社会的な孤立を深めがちです。「恥ずかしくて誰にも言えない」「自分たちだけがこんな目に遭っているのではないか」と思い詰め、一人で抱え込んでしまう傾向があります。しかし実際には、ギャンブル依存症で苦しむのは本人だけでなく家族も同じであり 、同じ悩みを抱える家族は決して少なくありません。この事実に気づくことが、回復への第一歩となる場合もあります。
社会的孤立・自己嫌悪・再発への恐怖
ギャンブル依存症が進行すると、当事者も家族も社会から孤立しやすくなります。借金や嘘が発覚したことで友人関係が壊れたり、職場に居づらくなって退職に追い込まれたりすることがあります。当事者本人も周囲からの非難や詮索を避けるために引きこもりがちになり、孤独の中でさらにギャンブルにのめり込む悪循環に陥りがちです。一方、支え続けてきた家族も限界を迎えると、やむなく距離を置いたり別居・離婚を決断することがあります。実際、「このままでは子どもにも被害が及ぶと感じ、夫に家から出て行ってもらった」という妻のケースでは、夫婦の別離によって当事者は一人残されました。妻は経済的不安を抱えつつも「まずは自分と子どもの生活を立て直したい」と語り、夫との連絡を絶っています。こうして家族を引き離し、本人を孤独に追いやってしまうのがギャンブルの恐ろしさだと彼女は痛感しています。
孤立した当事者は、しばしば深い自己嫌悪に陥ります。ギャンブルに多大な時間と金銭を費やした末に残るのは、後悔と虚しさだけです。勝って得た一時的な高揚もすぐに消え、負けが込めば自己嫌悪は一層強まります。「ダメだ、ダメだと思いながら買っているのでつらい。何を買っても全然ハッピーではない」「嫌な現実から逃れるために、また買い物(ギャンブル)をしてしまう。まさに病気でした」との告白からもうかがえるように、本人も本当は自分の行動に苦しんでいるのです。依存症が進んだ人ほど自尊心が失われ**「自分なんて生きている価値がない」とまで思い詰めることがあります 。先述の夫は借金問題で追い詰められうつ状態**になり、「首を吊ろうとしたけど死ねなかった。生きていてごめんね」と妻に謝罪したほどでした 。ここまで来ると、本人ももはやギャンブルを楽しんでいるわけではなく、罪悪感と自己嫌悪に耐えかねて心が壊れてしまっている状態です。
何とか依存を断ち切り立ち直れたとしても、当事者・家族双方に「再発(スリップ)への恐怖」がつきまといます。ギャンブル依存症は完治のない慢性的な病であり、一度その渦に巻き込まれた脳は元の状態には戻らないと表現されます。たとえ長期間賭け事を断っていても、強いストレスや誘因に晒されると再び衝動が頭をもたげることが知られています。実際に、ある男性は借金返済のため自宅マンションを売却し環境をリセットしましたが、その後抜け殻のようになってしまい依存症が再発してしまったといいます。家族もまた、「もう大丈夫」という安心感を持つことが難しく、「またあの地獄に逆戻りするのではないか」という不安が常につきまといます。「一度ならず二度までも裏切られた」「今回こそはと信じたいけれど、期待して裏切られるのが怖い」という心理から、心の底から安心するには長い時間と努力が必要です。
こうした恐怖に対処するため、回復後も自助グループに通い続けたり、周囲が見守りを続けたりすることが重要だとされています。ある回復者は「嫌というほど味わった絶望的な状態には戻りたくないという思いが踏みとどまる力になる」と述べています。本人も家族も常に警戒しつつ、一日一日ギャンブルをしない日を積み重ねていく—その地道な継続こそが再発への恐怖を和らげ、正常な生活を取り戻していく唯一の道なのです。
回復への糸口となった出来事
絶望的に思えるギャンブル地獄にも、回復への糸口が生まれる瞬間があります。それは多くの場合、当事者と家族が「このままでは底なしだ」という限界点、いわゆる“底つき体験”に達したときに訪れます。底つき体験とは、「もうこれ以上ギャンブルを続けられない」と感じる絶望的な状態のことで、経済的・精神的に追い詰められた当事者が初めて現実を直視し、真剣に変わりたいと願う転機となります。
具体的な転機の例として、家族や周囲による介入があります。本人が問題を認められなくても、傍で支える家族が意を決して立ち上がるケースです。借金が発覚したある家庭では、両親が膨れ上がった債務の肩代わりを一切拒否し、代わりに息子を専門治療機関へ連れて行きました。最初こそ息子は反発したものの、医師から「これは意思の弱さではなく病気なのだ」と説明を受け、自助グループへの参加を勧められたことで事態が動き始めました。また、別のケースでは妻が「このままでは家庭が崩壊する」と感じ、夫に対して「ギャンブルをやめて治療を受けるか、この家族から出ていくか」の最後通告をしました。夫はその場で涙を見せ「自分ではやめられない」と初めて弱音を吐いたのです。この瞬間、妻は「何かがおかしい」と直感し、改めて「ギャンブル やめられない 借金」などと必死にネット検索を重ねました。そして辿り着いたのが、同じ境遇の妻が綴ったブログ――「夫がギャンブル依存症と診断された」という記述でした。それを読んだ彼女は「もしかしてうちの夫も…?」とハッとして心療内科を受診し、専門医の診断によってようやく問題の正体が明らかになったのです。このように、家族の勇気ある介入と情報収集が、当事者に現実を直視させ治療への一歩を踏み出させる大きな契機となることがあります。
当事者自身が「もう限界だ、何とかしなければ」と自主的に助けを求める場合もあります。ギャンブルで人生を狂わせてしまった夫は、借金が膨らみ自宅まで失った後、「このままではいけない」と必死で相談先を探し始めました。彼が縋る思いで連絡を取ったのは、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」(自助グループ支援団体)でした。そこにつながったことで初めて彼は「苦しんでいるのは自分ひとりじゃない」と知り、回復への道のりに踏み出す決意を固めました。また、ある男性は借金が嵩みすぎて自己破産を検討しましたが、「自己破産するにも70万円近くかかる。その費用をどうにかしようとして、またギャンブルしてしまった」と打ち明けています 。皮肉にも、破産申立てという人生のどん底でさえギャンブルへの衝動が顔を出したのです。しかし彼はその経験を経て、「このままでは本当に人生が終わる」と強い恐怖を感じたといいます。その後、自助グループに繋がり仲間の話を聞く中で、ようやく自分の問題を真摯に受け止める覚悟ができました。
さらに、司法や行政の介入が転機になることもあります。不正や犯罪によって逮捕・起訴されれば強制的にギャンブルから隔離されます。実刑判決を受け服役する間に心身を立て直し、出所後は更生プログラムに取り組んで再出発を図った人もいます。決して望ましい経路ではありませんが、「どん底」の出来事がかえって人生をやり直すきっかけになる場合もあるのです。
回復への道:試行錯誤と再発との闘い、そして希望
ギャンブル依存症からの回復は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。断酒や禁煙と同じように、再発防止を含めた長期的な取り組みが必要です。その過程はしばしば二歩進んで一歩下がるような試行錯誤の連続になりますが、決して諦めてはいけません。実際、多くの回復者が途中で何度かスリップ(再発)を経験しています。たとえば、ある夫婦の場合、夫は治療開始から4年目に一度大きなスリップをしました。妻もまた、ギャンブルは止められたものの買い物依存に苦しみ「自分だけは回復できないんじゃないか」と長く不安を抱えていました。しかし二人とも、最後には苦しい時期の経験を糧にして12ステッププログラムに真正面から向き合い、依存症という病と自分自身の生き方に向き合うことができたと言います。このように、挫折を繰り返しながらも治療を続けること自体が回復へのプロセスなのです。
回復のための具体的なアプローチとしては、自助グループへの参加が大きな柱になります。ギャンブル依存症本人の自助グループ(ギャンブラーズアノニマス=GA)や、家族向けの自助グループ(ギャマノンなど)では、同じ苦しみを経験した人々が定期的に集まり、体験や気持ちを分かち合います。ある当事者はGAのミーティングに通い、自分のこれまでの経験や現在の状況を語り合うことで回復を目指しています 。「言いっぱなし・聞きっぱなし」の場で誰からも責められずに本音を吐き出せることで、長年独りで抱えていた羞恥心や孤独感が薄らぎ、代わりに「仲間がいる」という安心感が生まれます。実際、自助グループに初めて足を運んだ人の多くが「思っていたのと全然違った。皆明るく前向きで驚いた」と感じるそうです。暗くみじめな集まりではなく、英会話サークルか料理教室のように和やかで笑いもある場所だったという声もあります。仲間たちはどんな失敗談も笑い飛ばして受け入れてくれ、「ありのままの自分を受け入れてくれる居場所があるのは本当に幸せなこと」と回復者は口を揃えます。
自助グループで採用されている12ステップ・プログラムは、依存症からの回復プログラムとして世界的に実践されている手法です。これは単にギャンブルをやめるだけでなく、自分の生き方の癖や考え方の歪みを見直し、依存症になりにくい健全な生き方を身に着けることを目指すものです。プログラムの中ではメンター(スポンサー)制度もあり、先に回復した先輩が後に続く人の相談相手・支援役となってくれます。スポンサーは「凝り固まった自分の考えに気づかせてくれる存在」であり、辛いときに連絡を取り合って支えてくれる心強い味方です。こうした仲間やスポンサーとのつながりが、再発の誘惑と闘う上で大きな支えになります。
もちろん専門医療やカウンセリングも重要な役割を果たします。ギャンブル依存症そのものに効く薬は存在しませんが、抑うつ状態や不安障害など併存する精神疾患があれば適切な薬物治療が行われます。また、精神科や依存症治療施設では認知行動療法などを通じて、ギャンブルに依存してしまう思考パターンを修正する訓練も行われます。入院治療が必要なケースでは、一定期間環境を絶ってギャンブルから隔離されることで脳を休ませ、回復に向けた準備を整えます。ある当事者は回復施設に入所しましたが衝動に負けて飛び出してしまい、一時行方不明になったものの、最終的には専門病院に入院し治療プログラムを受けました。その甲斐あって退院後は自助グループにも落ち着いて通えるようになり、再起の道を歩み始めています。
家族側もまた回復が必要です。家族の会(自助グループ)に参加したり、カウンセリングを受けたりすることで、家族自身の心のケアと問題への対処法を学ぶことができます 。依存症者にどう接するか、どこまで援助しどこから突き放すか、同じ境遇の人たちと話す中で有用なヒントが得られるでしょう。ある母親は家族の会で学んだことで「ギャンブルをするために借金をするのは普通ではない(病気の症状なのだ)」と理解し、対応の仕方を変えることができたと言います 。それまではなすすべが無くお金を工面してしまっていた彼女も、境界線を引くことの大切さ(お金の援助はしないが回復の援助はする、という姿勢)を身につけました。このように、家族が適切な支援を受けて変わることは、当事者の回復を促進する上でも極めて重要です。
長い闘病生活の末に、希望の光を見出した当事者・家族も大勢います。ギャンブルと決別し新たな人生を歩み始めた人の中には、「かつては絶望しかなかったけれど、今は昔よりずっと幸せ」と笑顔で語る人もいます。夫婦そろって依存症に苦しんだ末に回復し、今では二人で支え合いながら穏やかに暮らしているご夫婦もいます。その妻は「自助グループの仲間のおかげで、ありのままの自分を受け入れてもらえる場所ができた。頼れる仲間がいるというのは本当に幸せなこと」と感謝し、「苦しい経験もあったけど、今は昔よりもずっと幸せに生きている」と語っています。別の男性は、断ギャンブルを続けながら就職活動に励み、今では家族の信頼を取り戻して安定した仕事に就くことができました 。彼は「お金が全てじゃないと気づき、仲間と相談しながらやってきた結果、今はちゃんとした職に就き家族も自分を理解してくれるようになった」と自身の変化を述べています 。
回復者やその家族の中には、自分と同じ苦しみを味わう人を救いたいと、支援活動に乗り出す人もいます。たとえば前述の母親は、自分が救われた家族の会に恩返しすべくスタッフ(世話人)となり、同じ悩みを持つ家族のサポートを始めました 。また、夫婦で依存症から立ち直った田中紀子さんは「考える会」という団体を立ち上げ、当事者や家族を支援する活動を精力的に行っています。彼女は「12ステップの最後に掲げられた目標は、同じ問題で困っている人たちを助けること。かつて苦しんだけれど社会復帰して社会の一員として活動している人がいるという事実が、これから回復を目指す人たちの希望になる」と強調します 。実際、「一度失敗してもまた戻ってこられる社会にしたい」と願う支援者の存在は、当事者・家族にとって大きな励ましです 。
ギャンブル依存症との闘病生活は決して平坦ではありませんが、適切な支援と諦めない気持ちがあれば、必ずトンネルの先に光が見えてきます。どん底を経験した人だからこそ掴める強さや、新たに築ける絆もあります。これはある意味、当事者と家族が共に生まれ変わるための旅路とも言えるでしょう。もし今まさにギャンブル問題に苦しんでいる方がいたら、どうか一人で抱え込まず専門機関や自助グループ、信頼できる人に相談してください 。今日からでも遅くありません。どんな絶望の中でも、人は変わりうるし、やり直すことができるのです。
References: ギャンブル依存症に関する当事者・家族の体験談および専門家の解説より など.